ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.67 )
- 日時: 2010/05/04 13:48
- 名前: 譲羽 (ID: M2SneLVI)
【21】
残念ながらボクには初対面の人のことを探るスキルなんてヒトカケラも持ってない。
なのでボクは真っ直ぐ前の花屋に行かず酒場前の水路まで戻った。御影さんと乗ってきた小舟にボクは言った。
「散り逝き通りまで」
“きゅーい”
すんなり了解してくれた。まぁ、御影さんには悪いけど長い長い階段を上って帰ってもらおう…。
散り逝き通りはいつものように人が少ない。本通りの方を通ってきたんだからなおさらそう見えたのかもしれないが…。
ボクは最近常連の店のドアを叩いた。いつものようにきしんでドアが開く。
「いらっしゃい!もう来ないかと心配してたんだよ?」
「えぇ。出来ればきたくありませんでした。初回の雅焔さんの印象は最低でしたから」
「ひどいよ?まぁまだ君は僕の根はいいって信じてるくれてるでしょ?」
「………」
図星だった。頭がきれるなぁこの人は。だからこそ図書館の館長さんを身代わりにできたんだろうけど…。
「雅焔、お客さん?じゃあ私はそろそろ帰ろうかしら」
「いや、まだいてもいいよ。蓬さんどうせ詩句だから!」
どうやら蓬さんが来てたようだ。てかどうせってなんだよ…。それに呼び捨てだし。まぁいいんだけど…。
「何で蓬さんがいるんですか?柊さんについに縁をきられたんですか?」
「そんなことあるわけないでしょ?さっきのお酒の鑑定をしにきたのよ。リコリスもいないし、紅もなかなか帰ってこないから。」
御影さんが酒場にいることは言わないでおこう…。ボクの発言のせいで喧嘩されるのはゴメンだ。
「で、詩句は僕に何の御用で?」
「あ、えーと商店街の1本下がったところにある花屋の女の人について何ですけど…。」「へぇ!!何々?あんた興味あんの?へぇ…年上好きなの」
「なわけないです。ボクは同い年派ですからね。ただ恋路の手伝いをすることになっただけです。」
ボクはホトソンさんとの事わ言いたかったのだがあえていわなかった。蓬さんも雅焔さんも口が軽そうだし、どちらも御影さんと接点があるからだ。
「もう恋バナには飽き飽きしてるんだと思ってたよ。詩句はいい人だね。で、お代は?」
「………」
忘れてた。ポケットを探るが最初から何もいれてないのだから入ってるわけない。突然蓬さんが“鯛の形をしたワッフル”を雅焔さんに差し出した。
「ほら。私の分だったけど詩句のお代としてあげるわ。」
「いいんですか!?」
「いいわけないじゃない!!“鯛焼き”は街ではやってる新スイーツなんだから!でも恋に関しての手伝いのためなら我慢できるわよ!私は大人なんだからね!」
「…ありがとうございます。蓬お姉さま。よければボクの分を帰りに買ってくださいね!」
「まっかせなさい!」
本当にお人好し。んでもってのせやすい…。
「まいどあり。花屋の女でしょ?フローラ・チェルトで通ってるね。ただいま17歳。もうじき18歳。少し内気だけど笑うとかわいいって人気があるね。花屋の花は異世界から仕入れてる。」
「異世界からですか…。」
さすが集い街。花も異世界のが集ってるみたいだ。
「まぁ、副職が盗賊だから貴重なのも置いてあると思うな。行ったことないからわかんないけど」
「と、盗賊!?花屋なのに!?」
「うん。本名はエルザ。名字は…ないね。盗賊の方では“花霞”って2つ名が付くほど有能な女みたい。」
「花霞のエルザですって!?ここに来てたの?」
雅焔さんの話しを聞いて蓬さんが乗り出す。
「「知り合いですか蓬さん?」」
ボクと雅焔さんがハモる。
「私の後輩よ!!最近逢ってなかったから心配してたのよね…。確かにエルザは美人だしかわいいわ…。私が認めるんだから間違いないわ。でもその手伝い断った方がいいわ詩句。エルザに恋しても無駄だわ。」
「?何でですか?」
確かにそんな内気な盗賊の人、ホトソンさんとは釣り合わないけど…。でも蓬さんにはホトソンさんのこと話してないな…。
「彼女はね、愛することができないの。好きといわれたことは何回もあるの。私、何回も相談されたんだから。ただ昔助けてもらった人がわすれられないのよ。戦場で密偵やってた頃の話だから生きてるかもわかんないのに…。顔も忘れてしまったんですって」
愛されることはたくさんある。なのに一途に誰か覚えてない人を思ってるなんて…。すごく悲しい話ではないだろうか?
って、エルザ…フローラさんに感情移入してる場合じゃない。ホトソンさんはどうすればいいのだろうか?
この前のように納得いかないのは嫌だ。やるならハッピーエンドで終わらせたい。
「…じゃあどうすればいいんですか…」
「だからあきらめなさいよ。今のうちやめとけばエルザを好きな人も浅い傷つきで終わるわよ。」
確かに浅い傷つきで終わるかもしれない…。だがすぐ前にいつもあきらめてしまった人がいたらその傷は一生ふさがることはないんじゃないのだろうか?
「そんなに成功させたいなら君が泣いてやればいいよ」
突然雅焔さんは鯛焼きを食べながら言った。
「君が泣いて、涙を飲ませれば願いは叶うんだろう?なら最初からそうすればいい。」
最もな話しだった。ボクが泣けばどんなに確率が0だろうがマイナスだろうが100パーセントになるのだから。だが、それは本当にいいことだろうか?
「…ありがとうございました、雅焔さん。」
「詩句?鯛焼き帰りに買ってくの?」
「いいえ。タマネギ買ってきます。」
いいことかどうかそんなのわからない。迷ってたらきりがない。ならボクは100パーセント成功させることを目指す。
それがたとえ嘘やまやかしの類であっても。