ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】  ( No.75 )
日時: 2010/05/06 20:27
名前: 譲羽 (ID: M2SneLVI)

【24】
斑ちゃんの仕事ぶりは凄いものだった。ホトソンさんの宿屋の1階を花とレースで飾りたて、さらに仕立て屋顔負けの純白のドレスとタキシードを3日でつくりあげる。

「斑君は何もしないんですか?」

ボクの部屋でイスを揺らしながら小瓶に入ったボクの涙を眺めている斑君にボクは聞いた。

「そうだよ。おいらは葬儀専門。逆に手出ししたら斑に殺されちゃうよ」
「…そうですか。いつまでもそんな、にやけた顔で小瓶眺め回さないでくださいよ。屈辱的ですから。」
「だってさ。この一滴であの柊を殺せるんだよ?凄いよね。やっぱり詩句って名は“裏切りの禁句”だね。」

“詩句”は昔反乱の根元となったことで柊さんの友達の中では有名だ。

「柊さんってそんなに強いんですか?」

ボクは名前から話しをそらす。

「うん。強いよ。あいつはたくさんの人からたくさんのまじないや呪いをかけられてるからね。魔法の塊っていってもいい。普通あまりかけすぎると拒絶反応おこすのにそれがない。なんであいつが生きてられんのか長く生きてるおいらにもわからない。ただあいつは“世界の業”から上手く逃げることに成功したんだ。」
「世界の業ってなんですか?」
「そんなのも知らないのか?何事も終わるっていう話のことだよ」

…。つまり、死ぬことがないってこと。

その安心感があるから柊さんはいつもへらへら笑ってられるのかもしれない。

もし、ボクがそうなったらボクは笑ってられないだろう。目の前でどんどん友達が老いて死んでいくのだ。そんなのはゴメンだ。

いったい柊さんは何を考え、何を思って生きているのだろう?

…また疑問が。

「ま!それもそろそろ終わりだけどね!!お前はその後おいら達ときたらいいよ!」
「お断りします。ボクは…そうですね…異世界にいる人形好きの少し無口な魔女さんのとこに逃げることにします」

ボクの答えに斑君は顔をしかめた。

「詩句?斑嬢が呼んでますよぉ?」
「斑ちゃんが呼んでるので。斑君。ボクの部屋を散らかさないでくださいね?」
「わかってるよ!!子供じゃねぇっていってんだろ!?」

ボクは斑君の声に背を向け下に降りた。

「…詩句さん。準備万端です明日が本番です…あの…斑の言うことを聞いてくれてありがとうございました」
「なんでそれを?」

斑ちゃんはいつも忙しそうで斑君と話してる暇などなかったろうに…。

「双子の竜ですから…以心伝心なんか簡単です。」

斑ちゃんは誇らしげに顔を赤らめていった。

「あ!すいません…柊さん。大きなボタンを1つ買ってきてもらっても良いですか?1番遠い店のがいいんですけど」
「それは大変ですねぇ。わかりましたぁ」

斑ちゃんにそう言われ、柊さんは喫茶店をでた

「…大きいボタンなんか何に使うの?」
「使いませんよ?…すいません…厄介払いです。」

謝るならやらないでほしい。柊さんもすんなり騙されてるし…。

「君は優しそうだから聞くけど、なんで柊さんを殺そうとしてるの?」
「…殺すことは…悪いことですか?…悪いと思ってるのは貴方だけかもしれませんよ…」「え?」

殺すのは悪い事じゃないのだろうか…?罰を受けなくてはならないものじゃないのだろうか?

「迷ってますよね?そういう意味です。私の周りの人が悪いと思わないから、思ってる私は恥ずかしいと思うんです。それを隠すために周りに合わせてるんですよ。」

…。確かに1人だけ思ってたら絶対行動しない。みんなに合わせてしまう。

「それに…柊さん達だっていろんなものを壊してきてるんです…心とか魂とか国とか街とか…ならお互い様だと思います…。」
「嫌なのにやってるってことだよね!?ならやらなければいい!斑君に反抗すればいい」

斑ちゃんは首を静かに振る

「わからないんです。殺すことを否定する気持ちがどちらのものなのか…。肯定する気持ちがどちらのものなのか…双子は2人で1人。以心伝心は完璧ですが、故にどの気持ちが自分のかわからなくなるんです…」

まるでからまってしまった2本の糸のように、相手の気持ちが伝わりすぎてできてしまった矛盾。

殺したいのに殺したくないと否定される

殺したくないのに殺したいと肯定される

それはあまりにも悲しい双子で、ボクはその時その糸を切って欲しいと楽になってほしいと—

早く死んでほしいと思った。