ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ( No.76 )
- 日時: 2010/05/06 20:29
- 名前: 譲羽 (ID: M2SneLVI)
【25】
結婚式が行われた日は晴れ晴れとした空だった。まぁ別に屋内でやるから関係ないんだけど…。
ボクはいつもの私服で行くことにする。
「斑ちゃんと斑君は行かないの?」
「あぁ。すぐトンズラするつもりだから。」
「…柊さんと御影さんは?」
「柊はリコリス氏に言われたことをやらなきゃいけないんですよねぇ」
「俺はその…なんだ…まぁ行かない」
みんな結構多忙なようなのでボクは蓬さんと一緒に行った。
「柊がこないなんて残念だわ。でも良かったわね詩句。おくれてリコリスは来るそうよ。」「はい。蓬さんとなんてゴメンですから!!」
どっちかっていうとリコリスさんの方がゴメンだが…。
結婚式は盛大だった。ほとんどは飲めや食えやのお祭り騒ぎだったが、ホトソンさんとフローラさんは中心で笑っていた。
例え偽りだったとしても成功して良かったと思える反面、柊さんが心配だった。
「詩句さん悩んでますね。」
いきなり横にリコリスさんがいた。
「!!何ですかびっくりしましたよ!!」
「すいません。でも柊さんのこと心配してたからこっちも心配になっちゃって」
お見通しのようだ。ボクは頭を下げる。
「すいませんでした。リコリスさん!!柊さんを…ボクは…—」
その後は言えなかった。罪悪感につぶされてしまった。
「何あやまってんですか?柊さんは無事ですよ。ボクが2人の裏切りについて報告しときましたから…いや、最初から裏切ってんだから…休戦撤回?前々から知ってたことですからねぇ。今頃御影さんにこてんぱんにやられてますよ。」
「で、でもあの2人はボクの涙を…」
そう。あれさえあれば願えばどんなピンチでも勝利にかわるはずだ
「ボク。1ついっておき忘れてたんです。詩句さんの笑いも涙も“本気で心のそこから思わないと効力はありません”」
「は?」
ってことは、タマネギなんかで泣いても意味がないって事!?
「そういうことです」
リコリスさんが心を読んで説明してくれた。てかいいかげんやめてほしい…。
!!でもなんで結婚式は上手くいってるんだろう…?
「簡単ですよ。最初から0でもマイナスでもない、半分以上…いや2人とも思ってたんだから100パーセントだったってことです。」
なんだ…心配する必要はなかったってことか…。ただ告白する勇気だけあればよかったんだ。柊さんも死なないし。一件落着ってことで!
そうこれはまやかしでも嘘でもない。本当の恋愛の結婚式だったのだ。
「で?2人はどうなるんですか?」
最後に残るのは2人の問題。まぁどうせリコリスさんが魂を回収して終わりだろう。
「詩句さんが思ってるとおりですよ。知ってましたか詩句さん?鏡に閉じこめられた魂はいつまでも生きてるんですよ?何もない真っ暗闇の中、考えることしかできないんです。」
それはつまりいつまでもあの双子は死なないということではないだろうか?
考えることができるということは永遠にかたわれの思いと離れられない—
いつまでも否定され続け、いつまでも肯定され続ける。
「あの…見逃してあげてくれませんか?あの双子はつらい思いをしてきたんです…死んだら幸せになれるんです…。」
「わかってますよ?だからこそです。あの2人はボク達に牙を剥いた。なら倍返しが当たり前でしょう?まぁそんなのは理論だてで、ただ魂が欲しいだけなんですけどね。竜の末裔で双子なんて珍しいですから」
沈黙。相変わらずリコリスさんは自分の欲望に忠実だ。
「まぁ詩句が魂を…そうですね“半分”くれるなら見逃しましょう。」
…。ボクは前、蓬さんが言ってたことを思い出す—
“魂は半分にしても結局は死んでしまう”
それでもボクは良いと思えた。なぜこんなに双子の肩をもつか自分でもわからない。
リコリスさんの目が光る
「ではこれを…」
リコリスさんは鏡を差し出す。
「リコリスさんお願いがあります。ボクの手で2人を殺させてください。」
「そう言うことも読んでましたので、柊さんにはとどめを刺さないよういっときました。御影さんも我慢してます。」
どこまで読んでたのだろう…。ボクが魂を差し出すこともはいってたとしたらただボクはリコリスさんの手のひらで踊らせられてるだけなんじゃにだろうか?
リコリスさんがぶつぶつと唱える。ボクは胸に強い圧力をかけられているように感じる…。
苦しい…苦しい…。目の前が真っ暗になる…—
「終わりましたよ?」
リコリスさんの声が響いた。意識が戻る…。
フローリングのぬくもりを感じる。ボクはいつのまにかうつぶせに倒れていた。
「大丈夫か坊主?」
「詩句!?どうしたのあんた!!」
「…大丈夫ですか?」
ホトソンさんとフローラさん。蓬さんが驚いている。ボクは心配をかけまいと急いで立ち上がった。なんだか身体が軽い。何か物足りない感じがする…。
「大丈夫です!!あの…ボク用事を思い出したので…また!」
ボクはそういって急いで宿を後にした。リコリスさんが外で待っていた。
「君が生きてられるのは後20分ぐらいです。早く行きましょう」
リコリスさんはそういうとボクの手を握り、走った。