ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ただいま更新休…。  ( No.84 )
日時: 2010/06/19 21:39
名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)

【29】
「さて、柊さん。こんな暑い日は飲みにいかねぇか?…まぁ俺は飲めねぇけどよ。」

突然ホトソンさんが切りだした。

「いいですねぇ。柊もあまり飲めませんが、これでも未成年なんで♪雅焔嬢行きますか?」
「行く行く!!あ…でも詩句はかなり苦手だよね…?」

雅焔さんが心配する。ボクは酒場で気絶してしまったことを思い出す。今ではトラウマだ。

「はい…。でも皆で飲んできてください。ボクはアイスティー完成させます!…てか柊さん何歳なんですか?」

見ため18歳くらいかな…?

「柊は忘れてしまいましたよ。まぁ、身体の年齢は20いってないでしょうねぇ。“詩句”にみんなで歌ってもらったのは19でしたからねぇ。」

…柊さんは“世界の業”から外れているって双子の竜の片割れが言ってたような…いや、2人で1人だからあれは“双子の竜が”だろうか?

まぁ、こんなに若々しいのにもう1000年ぐらい生きてたり。

前回同様。やっぱり見た目で判断しちゃいけないな。

ボクも記憶がないだけで何年も生きてるのかも…。

てか“みんなで”ってことは蓬さんも御影さんもリコリスさんも全員だろうか?

「本当に…いいんですか?詩句君。ホトソンが言い出しちゃったけど…」
「あ、はい。気にしないんで大丈夫ですよ。フローラさんも楽しんできてください」
「…ありがとうございます」

新婚さんだからなのか、すぐ結婚してしまったからなのか、ホトソンさんとフローラさん。まだ距離が少し遠い気がする。まぁこれからの2人だから心配ないけど…。一目惚れだし…。

「じゃあ詩句。店番頼みましたよぉ?」
「はい!柊さん!!任せてください!!」

ボクは皆が出かけた後。すぐにアイスティーへと取りかかった。

だが、集中力が欠けてしまっていた。すぐにやめてさっきの話しを考える。

『知らない場所は存在しないし、知ってる場所ははっきり存在するんです』
『この街のどこかへも行くことができると思いますよぉ?—オススメしませんがねぇ』

知らない場所。知らない人。ボクは行ってみたかった。

この街に1週間のうち6日外出して、全てを知っていると思って、どんなとこでも行けると思っていたのに、まだこの街は広がるようだ。

なんだか自分が小さいと感じて悔しかったし、きっと新しい土地への好奇心もあったのだと思う。

…裏口も開けるだけなら良い…喫茶店からでなければ帰ってこれる…見るだけなら、眺めるだけなら……—

ボクははっと我に返る。

ボクは旅人だった覚えはないし、裏口は使っちゃいけない。

そう言い聞かした。

だが、どんな人でもダメと言い聞かしすぎるとやってしまうものだ。

「少しだけなら良い。少しだけなら。少しだけ。少し。ほんのちょっとだけ…」

ぶつぶつと言いながらボクは裏口の取ってを掴んだ—

何も考えないように呼吸の音を聞く…もう1度街へ続くドアを見て誰も帰ってこないか確認する…さっきの欠けた集中力など忘れたかのような集中力。

ボクは勢いよく裏口を開けた……—

「まったくノックもなしとかありえない…すいません、主は出かけておりませんが、お約束はしておいででしょうか?」

メイドがいた。ボクは呆然と立ちすくむ

「知らない顔だな…お前、名を名乗れ。」
「あ、あの詩句です…すいません…間違いました…」

ボクの口内はカラカラに乾いていて裏声が出ていた。急いで閉めようとする。

いきなり人が出てくるとは思っても見なかった…。

だがそのメイドはボクの名前を聞いて一瞬驚愕した。それから瞬時に身だしなみをチェックし、ドアを押さえ、ボクの手を掴んだ。

結構凄い握力…こんな細腕なのに。

「し、“詩句様”!?お帰りなさいませ…ご無礼をお許しください…長い年月“記憶”も何も連絡がありませんでしたので…心配しておりました…。ずっとこの古出伊咲夜。全ての使用人がいなくなろうがずっと…ずっとお帰りをお待ちしておりました。お顔も声も全て、随分お変わりになられましたね!さぁ“詩句様”どこもかしこもいつでもピカピカにしております。今紅茶をお持ちしますからどうぞこちらへ!!」

“詩句様”!?…人違い?それとも記憶喪失になる前のことだろうか?

メイド—伊咲夜さんは張り切っているみたいで、ボクを喫茶店から出してしまった。

どうやらお屋敷のようで古ぼったいシャンデリアや絨毯。階段のてすりは真っ白で見事な彫刻のアートになっている。広々としているが、見たところ埃は一切ない。

喫茶店の裏口はこの屋敷の玄関に繋がってしまったようだ…。

追い打ちをかけるようにドアが後ろでバタンと閉まった。