ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ただいま更新休…。  ( No.86 )
日時: 2010/06/19 21:40
名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)

【31】
一応これ以上誤解されては困るのでボクが柊さんと初めてあったところから全て話した。

「……—。ってことで、ボクは泥棒じゃありません。」
「ご無礼をお許しくださいてさっき言いました。詩句さんの話しによるとどうやら柊さんはこの街にいるんですね…困りました。」
「この街ってことはここは旅人ノ街なんですか?」

ボクはアイスティーを飲み干して聞く。

「だからさっき言いました。ここは旅人ノ街にある現当主、詩句様の別荘。記憶の館。まったくこれだからちゃんと話しは聞いてほしいものです」

伊咲夜さんはすかさず2杯目のアイスティーをテーブルに置く。

…てかさっき伊咲夜さんが話しを聞かなかったから殺されかけたんだけど。

「すいません。記憶の館って…」
「あぁ〜はいはい。1からご説明いたします。詩句様が小さい頃、まぁ今の貴方より少し下ぐらいでしたけど、お屋敷でお過ごしになられたことやその時思ったことを忘れたくないと考えました。ですが人にも覚える限界がございますから、それを保存するためにこのお屋敷をお造りになりました。」

つまり、ここは記憶の保存場所。図書館や美術館みたいなもんか。…嫌なことを思い出してしまった。

「詩句様はこの旅人ノ街が“サイハテの街”という別名があると知りました。迷ったり、何かに入り込みすぎてしまうと来てしまうと言われています。なので記憶が迷っても入り組んでいてもこの館に来れるよう、この街に造ったのです。」
「頭いいんですね“詩句”さんは。」
「はい。詩句様はまじないや呪いの魔道の本を熱心に読んでおられました。お歌もお上手で、まだ私が幼いころは本家のメイド長であった母様と一緒に聞き惚れていました。」

伊咲夜さんはうっとりとして話す。どうやら思い出しているようだ。

「ええと、柊さんが街にいて困るというのは…?」
「あ。それはですね…今度お話いたします。来てから1時間たってますしお帰りになった方がいいです。柊さんといるならばなおさら。不思議がられては困ります。」

確かに。万が一先に皆が帰ってきてしまっていてボクがいなかったら困ったことになる。伊咲夜さんにも迷惑かかりそうだし。

「そうですね。あの帰り道…本通りにでるにはどうすればいいですか?」
「……それなら門を出てすぐ左へ。すぐ路地裏にでますからそのまま進んでください。住宅地にでますから1本下に降りれば本通りです。」
「ありがとうございます。ではまた。」
「あの…柊さんには秘密ですよ?それと…絶対来てくださいね!…もう、待つのは十分ですから…」

伊咲夜さんはうつむいて言った。連絡もない主人、“詩句”をずっと待ち続けているのだろう。

“詩句”がどこかの世界で置いてきぼりにされたのを果たしてしっているのだろうか?

「分かってますよ!明日絶対来ますからおいしいものを作って待っててくださいね!」

ボクは元気にそう言って、記憶の館を後にした。