ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 旅人ノ街【ツドイマチ】 ただいま更新休…。  ( No.87 )
日時: 2010/06/19 21:41
名前: 譲羽 (ID: fgNCgvNG)

【32】
ボクは館を出た瞬間、全速力で走り出す。

もう柊さん達は帰っている途中ということだってありえないわけではない。

どちらかといえばボクが思っているよりも柊さん達は酒に強くて、まだ笑いながら飲んでいるという方に賭けたいが…。

そんなことを考えながら走っていると、路地裏で人とぶつかった。

“ドンッッッ”

反動で後ろに転ぶ

痛タタ…。

ボクはそう思いながらもすぐ立ち上がりペコッと頭を下げた。

「すいませんっ!では。」

そういって、進行方向へ駆けだそうとしたとたん…—

“ひゅうっっ”

何かが空をきる音がした。それにも構わず走りだそうとすると、ボクはもう一回転んだ。今度は前に。

足に何かが絡みついている感じがして見ると、鎖がついていた。それも何本も…。

「酷いんじゃないの?キミ。僕はレディだよ?起こしてくれるぐらいしてもらいたいな。」

起こった口調でいう声のする方向を見ると女が鎖を3本ぐらいもって立っていた。

ボクより少し背が高く、顔は口調と違い笑っている。何よりも印象だったのは、地面まで届く黒髪だった。

軽く結っているのに地面まで届くとは、きっとほどいたら大変なんじゃないだろうかと普通に考えてしまうくらい長かった。

「すいません。ボク急いでいるのですぐにこの鎖をほどいてもらいたいのですが、ほら、あなたはもう立ち上がっていますし」

ボクは努めて悪いという気持ちを込めに込めていった。

「はぁ?何様?キミがぶつかってきたから転んじゃって、髪踏んで痛かったんだよ?あぁ〜暑いのに人探し頼まれるわ、ぶつかって痛い思いするわ、楽しくない一日だよ!」

…失敗したようだ。逆に煽ってしまった。だが正直この返答にはムカついた。

「暑いのや依頼内容や髪のことやボクに関係ありませんよ?ボクだってあなたにぶつかったせいでこんなに時間ロスして!」

ボクは両手で鎖をほどきにかかる。この人と話していても時間が無駄になりそうだし。

「そうだよね、僕は僕。キミはキミの人生。関係ないよね。だからさ、僕がここでこのままキミに憂さ晴らししてもそれはもちろん関係ないよね」
「それは違いますよ。ボクとあなたがぶつかった時点で、ボクとあなたの人生は一瞬繋がりましたから。そのままほどければよかったですけど、そうはいきませんでしたからね」

女のいう言葉を全部ひっくり返す。女は少々驚いたようだ。

「全部否定されちゃったな。まぁ今のは言い訳なんだ。僕はキミと関係があっても関係がなくても、そんなことはどうでもいい。ただ楽しければいいんだからッ!」

語尾を強くしながらボクの足を鎖で強く締めあげる。

「痛ッ!」
「ここならちょうど誰もこないしね♪このままキミ殺しちゃおうか?僕の今日の憂さ晴らしとしてっていう理由があれば、キミも納得してくれそうだし」

ボクをスルーして話す。

「あ、あなたこそ何様ですか?」
「え?何様?俺様に決まってんじゃん!!他に何があるのさ!馬鹿?あぁ馬鹿に付き合う暇はないのになぁ」

そういいながらも2本の短剣を取り出し、ボクに向ける。

伊咲夜さんのことといい、今日は女難の日だろうか。

「あんれぇ?詩句。どうしましたぁ〜?」

本通りの方から柊さんの声が聞こえてきた。呂律が回っていない…酔っぱらってるみたいだ。どうやらみんなより先に帰ってきたらしい。

「柊さん…?あ、えーと大丈夫です」

ボクはいろんな意味であせる。

「あぁ。そうですかぁぁぁ。暗くなる前にぃぃぃ帰って来てくださいねぇぇ〜。」

そういって柊さんが立ち去ろうとする…

「あ!え?ちょ、ちょっと待ってくださいよ柊さん!おーい、待ってください!」

状況がわかってないみたいだ。いますぐにでも殺されそうな勢いなのに…。

「柊?詩句?……—」

気づくと女の動きが止まっていた。鎖がゆるんでいる。

今だと思い、ボクは勢いよく足を鎖からぬいた。そのまま走って距離をとる。

「本当にすいませんでしたぁ!」

ボクはペコリとして言う。

「ん?いいよ。柊?それに詩句?…あぁもういいや!早く僕の目の前から消えて!ほら行った行った!あ!ひとつ!僕はセシル・アンネース。次会ったら…いやいいやもう。じゃあね!バイバイ!!」

女ーセシルさんは一瞬で鎖と短剣をしまうと館の方向へと歩いていき、途中で消えた。

一件落着のようなので、柊さんを追いかけると、柊さんは角をまがったすぐそこで寝ていた。

ボクは痛む足をさすりながら、柊さんを引っ張って水路までつれていった。