ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 花の少女 ( No.117 )
- 日時: 2010/06/01 17:52
- 名前: 白兎 (ID: BtjLrvhc)
いつもの穏やかで優しい彼は__何処に行ってしまったのか。
愛花は自分の部屋に戻った。
そして黄薇のところへ。
「おかしい……」
「や、やっぱりぃ?」
「あんなの香澄くんじゃないー!!」
「だよねぇ……香澄、どうしたのかなぁ……」
「だって香澄くん『目障りだ、失せろ』って言ったんだよ?」
「うっそぉ……」
二人の会話を聞いていた美冬たちも話に入ってきた。
どうせなので、三年経った彼女らの紹介も兼ねておこう。
「えっ! 香澄くんが!?」
ちなみに、この相変わらずやたらテンションの高いのは陽子だ。
「香澄くん、いつもは優しいのにねぇ」
やっぱり変わらない、この のんびりとした口調は空。
「でも、昨日は普通でしたよね?」
美冬は、四年生になってからより一層大人びた様に見える。
「そうなんだよね。昨日までは優しい、いつもの香澄だったのに……」
少女達五人はしばらく考え込んでいた。しかし、一向に解決策は浮かばない。
仕方が無いので、院長の栞に相談することに。
「失礼します」
そんな言葉を律儀に言っていたのはもちろん美冬だけだった。
「どうしたの? 五人も揃って来るなんて」
「ちょっと聞きたいことがあって……」
栞は眉をピクリと動かした。
「香澄のことなら、私はなにも言わないわ」
皆は驚きの表情を見せた。
「えぇ〜!? 何で……」
「ごめんね。言わないで欲しいって言われているのよ」
黄薇は寂しそうな顔をして呟く。
「所詮、わたしたちは他人なのかなぁ……」
「そうじゃないと思うよ。……あの子、今は大変な時期なの。そっとしてあげてね」
「はい……」
覇気を全く感じない声で返事をした。
空は光を失い、真っ黒な闇が覆い被さろうとしていた。
月の光だけがポツリと寂しそうに存在していた。 ——そんな夜だった。
少年は左手に受話器を持って、何か話していた。
その少年は香澄だった。
「母さん、調子はどう?」
ひどく優しい表情の少年。
『ふふ。優しいわねぇ、香澄は。元気よ、とっても』
「俺も元気にやっているよ」
『それは良かったw』
「それで……退院はいつになるの?」
『看護婦さんが言うには、あと一、二週間程度らしいわ』
あまりにも外が真っ暗で気付かなかったが、少年の瞳はすこし曇っていた。
そして、相手に対して言っているのか、自分に対して言っているのか判らない呟きを放った。
「じゃあ俺は……あと一、二週間でこの施設を出るのか…………」
『そうね……。でも香澄が嫌なら、そのまま施設に残っていてもいいよ? 私とじゃ、収入も少ないしぎりぎりの生活になるだろうし……』
「いや、いいんだ。母さん。母さんと暮らせれば、それで」
『いいの? 不自由な生活を強いられるかもしれないのよ? あなたの好きな勉強だって……』
「俺は大丈夫。母さんはもう無理しないようにね」
『香澄……』
「じゃあね、母さん。また電話する」
『じゃあ……元気でね、香澄』
少年は受話器を置いた。
暗闇の中、ツー ツー という音だけが、虚しく響いていた。