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Re:     花の少女 ( No.148 )
日時: 2010/06/12 20:22
名前: 白兎 (ID: BtjLrvhc)




 愛花が施設を出た日__その日、愛花は泣いていた。

綺麗な顔を歪めて。でも、決して醜い訳ではなかった。
ちなみに、陽子は愛花以上に泣いていた。
美冬と黄薇は、意外にも泣いていた。ただ、全く顔を歪ませず、むしろ奇麗に。
空は泣いていなかった。でも、寂しそうな表情にみえた。

時雨も泣いていなかった。むしろ、怒っていた。
それは、前日に愛花と時雨はケンカしていたからだ。

なぜケンカしたかというと、愛花は此処をでるその先日、つまり昨日になって
「明日、私は養子に行くから」と告げたからだ。
時雨は「なんでもっと早く言わなかったんだ」と問いただしたが、愛花は何も答えなかった。

(言いたくなかったんだもん) 彼女は自分の心の中で返事をしていた。
言いたくなかったのは、それを言う事は、認めることになるからだ。自分が養子に行くという事実を。

でも、そんな事をしてどうなった訳でもない。
愛花の知らぬ間にも事態は進んでいて、気付けば印が押されていた。
「本当は嫌」と言おうとしたが、愛花はその書類の重みを知っていた。
だから言えなかった。


 

愛花は大切な仲間達に見送られ、此処を去った。

そのとき、「向こうに行っても手紙送りあおうね」と約束を交わしていた。

最初のうちは、マメに手紙を送りあっていた。
そのオカゲで、ケンカしていた時雨とも仲直りできた。

でも、次第に手紙の数は減っていき

いつしか途絶えた。


三ヶ月も手紙が返ってこない事に不安を抱いた子供たちは、栞にきいた成宮の家まで訪れた。



その家は、とても大きな家だった。
そこから出てきたのは、確かに高そうな服を身に纏った愛花だった。
でも、その愛花から発せられた言葉は、かつての愛花では無かった。


彼女は、とても美しく作られた笑みを浮かべていた。

 「最近、手紙を返してくれなくなったじゃない? だから私達、気になっちゃって……」
美冬が優しく言った。

 「何で返事くれなかったのぉ?」
空も穏やかな口調だった。

その問いに答えた愛花も、優しく穏やかな口調だった。


 「だって……あなた達と文通なんかしたって、何の得にもならないじゃないですか」


愛花の顔は、それはそれは奇麗な笑みでした。
ただほんのすこし、愛花の後ろには何処と無く黒いオーラが見え隠れしていたというだけで。