ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:           残酷な女学生 ( No.30 )
日時: 2010/04/11 14:41
名前: 朔羅 ◆love33RPPg (ID: NOphWmYz)
参照: よし!!今日こそ髪の毛きりにいくぞお、うげ、明日月曜かよ……

第5話


そして、3人の方に視線を移した。
……黒こげになっている。
わかってるのよ、もう喋らないって。
もう動かないって。
もう笑顔になれないって。



——お母さん……。
   優しくて、いつも一生懸命だったわ。
——希紅子……。
   貴方は、好きな人がいたって教えてくれた。
——健二……。
   中学受験が控えていたのにね。







逢いたい。
貴方達に逢いたい。
私も今から逝くわ。




私は、胸の前にガラスの破片をもってきた。
これを刺せば……真っ赤な血がでて……。






「やめろ!」




その時、男性の低い声がきこえてきて
私を誰かが羽交い締めにした。
そして、ガラスの破片は、5m先に吹っ飛んだ。
どんだけもがいても、男性はとめてくるので
私は鬱陶しくなって、後ろを向いた。


その顔は……お父さんだった。



「お父さん!?」
「死のうなんて思うな、このバカ! 3人が悲しむだろ」



悲しむ……? どうして?
逢えるから嬉しいじゃない、悲しいわけない。
私は、お父さんのいってる意味がわからなかった。
お父さんは話をつづけた。


「あのな、父さんとお前がこの地震で生き残ったのは
それは、生きろってことだろ? 生かせてくれてるんだろ。
だったら、生きようじゃないか。きっと、自殺で
3人にあいにいったら、悲しむとおもうんだ」


お父さんの瞳は、かなり真剣だった。
……生きる? どうやって?



「…………」

私は、そのまま黙っていた。すると、お父さんが抱きしめてきた。



「お前には、父さんが居る。父さんと一緒に生きよう。な?」




その瞬間、涙があふれてきた。涙は次から次へと
地面へおちてゆく。私は、さっきの自分の
行動が恥ずかしくなった。


「えぇ……生きるわ……私!」

**

新聞会社も、倒壊してしまったことから
情報はとだえてしまい、新聞で
あの地震を伝えることができたのは
地震から4日後の、9月5日のことだった。
そして、何週間かして、復興作業もはじまった。

「はぁ……」


私は、父と一緒に辺りを散歩していた。
……浅草十二階も、もうない……。
よく、幼い頃にいった、思い出の場所だったのに。
私は、そうおもいながら空をみあげた。


真っ青な空にうかぶ、白い雲。
あの日……あの夏の日のように、この空は
晴れ渡っていた。
でも、なんだか悲しげなきがする。
……なんでだろう? なんで悲しいの?
最近は空をみあげると、恋しさも感じる。
……あの空にはなにがあるの?



「おい、お前ら」



突然、私達の前にたちはだかったのは
無精ひげの、50代くらいの男性3人であった。

「なんですか?」

お父さんが、少し嫌そうな顔をして答える。


「がきぐげこといってみろ」
「は?」



がぎぐげご……? 何でそんなことを
この人たちにいわないといけないの?
私は、口をあけて黙っていた。すると
男性の口調が少し強くなった。
仕方がないので、いうことにした。


「……がぎぐげご」
「がぎぐげご」


男性は、しばらく黙っていたが
こわばっている顔を急に、ゆるめた。

「よし」

それだけいうと、男性はそのまま去っていった。



「なによあれ、変な人たちね」


私は、お父さんに尋ねた。お父さんも
苦笑しているかと思ったら、違った。
すごく真面目な顔で、口を開いた。


「いや、あれは調べているんだよ。朝鮮人じゃないか。
……ほら、最近朝鮮人が井戸水に毒をいれてるって噂が流れてるだろう。
それで、朝鮮人を捕まえるってわけさ。朝鮮人は
濁音がいえないから、それを手玉にとって」


お父さんは、どうしてこんなことをしってるのかって?
お父さんは新聞会社で働いていて、色んな情報をしっているからだ。
私は、感心してしまった。そういうことだったのか。


「でも本当に毒なんていれたのかしら?」
「そればかりは、朝鮮人に聞かんとわからんなあ」


私は違うと思った。証拠も無いのに人を疑うなんて。
……その時だった。



ドーン



銃声が響いて、私は驚いて銃声が響いてきた場所を確認する。
……さっきの男性3人が、銃をもって立っていた。その足元には……横たわっている人。
それを眺めている、日本人らしき野次馬。


「……っ」



横たわっている人の体からは、真っ赤な血が。
……私は思わず目をそらしてしまった。
そして、あの嫌な記憶が蘇った。





お母さん、希紅子、健二。
死んだ時つらかった? 痛かった?
怖かった? どんなきもちだった?
人が死ぬってなに、ねえなんなの。


「お父さん、もう帰りたいわ」
「あ、ああかえるか」


私は速足でそのばをあとにした。