ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Cross Wing   −契約者− オリキャラ募集 ( No.11 )
日時: 2010/04/18 06:53
名前: スぺード ◆lLTUeKKhVg (ID: YAjKlDB6)

四話『絶望と始まり』





————あの時、何で私は“彼”を止められなかったのだろう。

この曇りない真っ青な空を眺めていると、私はいつも後悔で頭が一杯になった。…この空の下には、もう“彼”はいない。“彼”は‘悪魔に引きずり込まれて永遠となる闇へ堕とされた’。今でもその時の光景は目に焼き付いている。…もう二年以上も前の事だというのに…。
「———…どうしたのですか、エリィ」
私がそんな事を考えていた時、突然後ろから自分の名前を呼ばれた。私は思わずこの声に振り返る。
「あぁ…、貴方だったのね———レイヴェン」
すると、そこには見覚えのある男の人がいた。
「貴女はまだ、“彼”の事が忘れられないのですか?」
すると、彼、レイヴェンはまるで全てを悟ったかのように私にそう言う。その時のレイヴェンの瞳は、何かを探る様な、そんな怪しい光を帯びた瞳だった。そんな彼を見て私は、
「…そんなこと、ないです…」
本当の心境とは裏腹に、レイヴェンにそう言った。すると、それを聞いたレイヴェンは、ため息をつきながら、また、眉間に軽くしわを寄せてこう言う。
「——ワタシは貴女に嘘をつかせるつもりで言っているのではありません。ただ、“祓魔師”という立場をワキマえてほしいだけなのです。…ですから、“あの日”の事も“彼”の事も、そろそろいい加減忘れてください。もはや、あの日の事はワタシと貴方とあと数人の祓魔師しか知らないのですから」
言葉が、心に刺さるように…レイヴェンはいつも私にそう言う。でも、それは本当の事。だって、いくら元、祓魔師の“彼”だとしても、“彼”は“悪魔の契約者”にすぎない。…それと同時に、契約された悪魔によって永遠の闇に堕とされた、もはや会う事も出来ない人なんだから…。
「——しかし、ワタシはてっきり…貴女は“彼”を恨んでいるかと思っていましたよ」
レイヴェンは、私の顔を覗き込みながら言った。
「“あの日”、あの悪魔の契約者となった彼に…貴女はその左目を奪われた。そして、危うく命まで狙われかけて…。なのに、貴女は恨むどころか彼の事を未だに—————」
「…それ以上は言わないでレイヴェン」
私は、彼の言葉を拒むかのようにそう言った。そう、全てはレイヴェンの言うとおり。私は彼…ヴァン・レオナルドの事を今でも…。
でも、もう会う事はできない。彼は堕とされた、帰る事の出来ない深い闇に。その事は分かっている。…それでも、もしかすると彼は戻ってくるのではないか、と、勝手にそんな事を思ってしまう自分がいる。彼なら、“最強の祓魔師”と謳われた彼ならもしかすると—————って…。

「————レイヴェン様、エリィ様…!!」
そんな時…、祓魔師の補佐にあたる人物が突然私の部屋に入ってきた。息を乱して、それでも今すぐにと必死に何か話そうとしていた。…そんなに重要な事なのかしら…?思わず私はその人に駆け寄る。

「…たっ、大変です!“咎人”が現れました…!それも…大きな悪魔の力を宿して…!!!」

…“咎人”、“永遠の闇”からこの世界に戻ってきた者を言う。しかし、その戻ってきた者は“永遠の闇”に蝕まれ、悪魔をその体に宿して戻ってくるのだ。それは、契約とは違う、“存在そのもの”が、悪魔となってしうたのだ。…ほとんどの場合、咎人は自我が崩れ、悪魔同様魂を求めてさ迷い、生物を殺めるだけの存在となってしまう。無論、それは私達…祓魔師が倒さなくてはいけないのだ。いかなる場合でも…必ず…。
「————“大きな力”…、それは興味深いですね。いいでしょう、ワタシが向かいましょう」
するとレイヴェンは、それを聞いたとたん目の色を変えてそう言った。
「レイヴェン…!ダメです!貴方は————」
…レイヴェンがこうも目の色を変えた理由、それはレイヴェンが『殺す事が好きだから』。‘祓魔師’はイレモノ…、つまり生物を殺すために組織されている。彼はそれをいい事に、悪魔の契約者を理由に、何匹も、何人も、イレモノを殺し続けているんだ…。
「離してくださいエリィ。ワタシは行かなくては、一般市民の犠牲が出る前に…!」
「ダメったらダメです!貴方は殺める事しか頭にじゃない…!」
それに…今、まさかと思った自分がいた。

…もしかするとその咎人は、ヴァンなんじゃないかって———…。

「…貴方、その咎人の容姿を言ってみて」
私はレイヴェンの手を強く握ったまま、報告をしに来た彼にそう言った。
「容姿…ですか?」
彼はきょとんとした顔でそう言う。
「ええ、そうよ。早く言って!」
レイヴェンが行く前に…早く!私はゴクリ、と唾を飲みながらそう思った。すると彼の口から、最も言ってほしかった、と、同時に最も言ってほしくなかった言葉が出たんだ…。

「容姿は16歳くらいの少年かと思われます。特徴は髪が“銀髪”というくらい…との報告です」

———16歳に…銀髪…!?
私はその場に崩れるかのように力無く座り込んだ。喜びと、悲しみが交差する変な気持だ。レイヴェンはというと、突然離された手に、思わずエリィの方を見ていた。
『…ヴァンは、今生きていたとしたら16歳。おまけに彼は…銀髪だった…。——その咎人はきっと彼だ、彼は帰ってきたんだ…!でも、“咎人”として…』
いつの間にか、私の頬には涙が伝っていた。彼はこの世界のどこかにいる。だけど、咎人は私達祓魔師が殺さなくてはいけない存在…。

——————なんて運命は残酷なんだろう。

せっかく彼は生きていたのに…殺さなくてはならないなんて。どうして?彼は何も悪くないというのに、どうしてこんな事になってしまったの?会いたいのに、会えないなんて…。
「うっ…、うぅ——————っ…」
しかも、咎人は…自我が壊れてしまっているんでしょ?彼はもう私の事分からないの———?何で…?なんでこんな運命なの!?
「…エリィ、何故泣いているのです?」
…レイヴェン、本当は貴方も分かっているのでしょう?だけど…貴方は分かろうとしないのね。貴方はいかなる者でも“殺す”つもりだもの…。
「————…エリィ、ワタシは行きます。…仮に、その咎人が“彼”だとしても…ワタシは殺すつもりですよ…」
彼は、去り際にそんな私にそう言った。…そうだよね、レイヴェンはそういう人。レイヴェンに言わせれば、咎人ももはや悪魔。力の為、魂を求め生物を殺す悪魔と、咎人は変わりない。
——でも、それでも私は…

私は———————


…咎人の元へ向かうレイヴェンの背中を見つめたがら、私は絶望を感じた。これは抗う事の出来ない運命、そして定め。
ヴァンの生存は、もはや未来の彼の死を意味する。でも、私にはどうする事も出来ない。いくら咎人でも…彼は彼。ヴァン以外の誰でもない。なのに、悪魔の力の宿った咎人は祓魔師の敵であり、殺さなくてはいけない存在。…正反対の存在…。
「…ヴァン…」
私はそっと呟いてみた。しかし、何もない部屋に呟いたその言葉は、今はただ…虚しく響いただけであった。