ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Cross Wing −契約者− ( No.16 )
- 日時: 2010/04/20 21:04
- 名前: スぺード ◆lLTUeKKhVg (ID: YAjKlDB6)
五話『列車』
あれから僕は、列車に乗り何処か遠い街へ移動することにした。列車に乗った時、何故か底知れぬ安らぎを感じた。逃げ回ってずっと歩いていたからなぁ。僕は苦笑いを浮かべつつそんな事を考えていた。…静かな車内。過ぎゆく景色はまさに絶景ともいえる。思わず現実を忘れてしまうほどだ。
しかしその時、ある男の人が僕の側に来た。するとその男性は「前、座らせてもらっていいか?」と僕に尋ねてきた。
「あぁ、はい。どうぞ—————」
僕はそう言い、不意に顔を上げた。すると、僕も、その男性も動きが石のように固まった。
「————リっ…、リオンさん!!!?」
「お前…!こんな所にいたのか!」
目の前にいる男性、まさかとは思ったが…リオンだった。相手も相当驚いているようだが、僕は思わず心臓がとまるかと思うほどだった。だって彼は祓魔師で僕は咎人…—————。実はあの時何も言わず彼の家を出たのは、彼に悪いのもあったけど…何より祓魔師である彼から遠ざかりたかったというのもあった。
「全くお前は…、突然居なくなるものだから驚いたぞ。仮にもお前は怪我人だ。分かっているのか?」
…あ、そうだった。リオンさんは僕の正体知らないんだ…。僕は心の中で密かに胸をなでおろした。そして僕は、
「すいません、どうしても行かないといけない所があって…」
と、本当に心配してくれた彼に心から謝った。
「…で、リオンさん。何で貴方がここに…?」
そしてそれから、今最も疑問に思っていた事を彼に尋ねた。すると、彼は
「お前が心配だったからに決まっているだろ。駅でお前みたいな後ろ姿の奴がいたものでな、もしかしてと思って来てみれば…」
そうため息をつきながら僕にそう言った。
「そ、そうだったんですか…」
僕は罪悪感を感じながら、彼にまたペコッと頭を下げた。すると、「…まぁ、俺もお節介焼きなんでな」と、言いつつ彼はフッと微笑んだ。でも、その笑みは何処か申し訳ないかのように、寂しそうだった。
「…、この後…リオンさんはどうするんですか?」
僕は、そんなリオンに尋ねてみた。すると、リオンは遠い目をして
「特に何も…無い」
と、呟いていた。…「何も無い」…?
「——リオンさんって祓魔師なんですよね?そういった関係の仕事とかは…?」
「…俺は“なり損ない”の祓魔師だ…」
彼は…、僕に静かにそう言った。絞り出すような小さな、震えた声で…。僕はその声を聞いて、思わず息が止まった。凛としている彼が、声を震わしている。…“なり損ない”?一体それって…
「それってどう言う———————」
——ドオォォォォォォォォォォン!!
僕が口を開いた瞬間、凄まじい爆発音が汽車の中に鳴り響いた。そしてほぼ同時に乗客の叫び声があちらこちらから聞こえた。
「まさか…悪魔!?」
僕は、とっさにそう言った。…悪魔の気配を感じたからだ。祓魔師は、精神辺りにを巡らせ悪魔を察知する特別な能力を持っている。元、祓魔師の僕も、普通の祓魔師とは少し劣るがその能力を使う事が出来る。そして、僕よりもその能力の優れているレオンは、誰よりも早く、一切の迷いなくその爆発音の聞こえたほうへ向かって走っていった。
「…ッ!」
僕も、その後を追った。考えるよりも先に、体が自然に動いた。——こんなになった僕でも…何か力になれる筈。僕は先を行くレオンの背中を見て、そう強く願った。
「…あれは———祓魔師に…例の“咎人”…、ですね…。こんな所で会えるとは運がいいです…」
その時、ある少女が二人の姿を捉えていた。その少女は特に興味を示す訳でもなく、ただ本当に見つめているだけ、という風な感じだった。
「——“魔導師”として…咎人を逃がす訳にはまいりません…。リーが此処で排除するとしましょう…」
少女はそうポツリと呟くと、腰に下げている藁人形をギュッと握りしめ、二人の後をゆっくりと追っていったのだった…。