ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Cross Wing   −契約者−  ( No.18 )
日時: 2010/12/04 17:19
名前: スぺード ◆lLTUeKKhVg (ID: S8b9wYSL)

六話『不穏な者』





「ガアアアァァァァァァァァァァァッ!!」
列車の最終車両、そこは既に大破し車両の半分は消し飛ばされていた。風が、ゴォォォォォォォッと音を立てて、吹きさらしの状態のその車両に吹きこんでいた。
そして、そんな車両にいたのは白目をむいた背の高い男の人だった。頭から角と長い尻尾が生え、そして袖から見えている手は真っ黒に染まっていた。
「魔症化…!」
リオンは軽く舌打ちし、厄介だな、と難しそうな顔をしていた。それもその筈、悪魔に取りつかれた動物、主に人に見られるのが、あの皮膚が黒くなっていく変色化。あれは悪魔が己の力でイレモノを硬化、またその部分を鋭利な物や攻撃できるものに変化させたりする特有のものだ。ちなみに、黒くなっている所以外は硬化させたり変化させたりすることはできない。おまけに、魔症化させるのに、悪魔の力…すなわち魂の一部を使わなくてはならない。なので、魔症化は力を求める悪魔にとってはあまり使いたくないモノであって、ほとんどの場合、少しの部分しか魔症化させないのだ。
…とは言っても、魔症化させられると厄介なのには変わりない。ジャッジメントで強い攻撃を与えないと、イレモノにダメージを負わせる事は困難になる。それに悪魔がイレモノの一部を硬化、またそれを鋭利な剣にでも変形させていて…それでもし攻撃されたら、こちらが大ダメージを負う事になる。
「———ヴァン、ついて来たのか…!危険だから下がっていろ!」
するとその時、悪魔に気を取られていたリオンが僕が付いてきている事に気が付いた。僕の正体を知らない彼は、僕にそう言いながら彼のジャッジメントを形成した。
「————銃?」
僕は、それを見て思わず声を上げた。僕のジャッジメントが剣だからか、思わず反応してしまったのだ。そして僕は、リオンさんの言った言葉を無視して、
「…こう見えても僕戦うのは得意なんです。なので、貴方の手伝いくらいはさせてください…!」
そう言い一歩前に出た。ジャッジメントを使う訳にはいかないので、僕は破壊された車両の程良い長さの破片を拾い上げると、それを手に持ち構える。
「無茶だ!」
リオンは僕にそう言った。———確かに、無茶といえば無茶だ。だけど…
「それでも…‘こんな’僕でも何かの役に立ちたいんだ…」
——今…自分はどんな顔をしているだろうか…。それは、自分に向けた言葉。闇に堕とされた僕は、悪魔を宿してこの世界に帰ってきた。最早僕は普通の人でもなく、悪魔でもない中途半端な存在。でも、それでも僕にできる事はある筈…。

———何かの役に立てるなら、僕はそれにスガるしか道はないんだ…

祓魔師でもなく、もう人としても生きられない。そんな僕でも何かの役に立てるなら、それは本望だ——…
「…、分かった。くれぐれも無茶はするなよ!」
そんな僕を見てかどうかは知らない。が、彼は共戦することを承諾してくれた。
「…ありがとうございます」
僕は軽く微笑み、彼にそう言った。僕はその時…、本当にうれしかった。


*




ある建物の中——————、一人の男は窓の外を眺めていた。その男の瞳が何を捉えているのかは分からない。だけど、その男の口の端は少しつり上がり…小さな笑みとなっていたのは確かだった。
「———シンク?あなた何やってんの」
するとそこへ、そう言いながら小さな女の子と妖艶な顔立ちの女性が部屋に入ってきた。
「…ちっ…」
すると、シンクと呼ばれた男は眉間にしわを寄せて舌打ちをした。
「全く…主は失礼にも程がある」
「そうそう、明らかに嫌そうにするのやめてよね!」
シンクの言った事を聞いた二人は少し苛立ちを覚えていた。しかし、シンクはそんなのどうでもいい、と言う風にため息をつきながら立ち上がった。
「…五月女、ビークトルはどうした」
そして二人の横をすれ違いながら妖艶な顔立ちをした女性ににそう尋ねた。
「奴ならまたアレの手入れ…じゃと思うが。のう、テイナ」
五月女と呼ばれた女性は、少し古臭い言葉ではあるがそうシンクに言った。
「本当バイク好きだよねぇ…。私なんかこの前『寄るな雌豚が…』とか言われたもん。あ、今なんか急にムカついて来た…!」
五月女の言葉に付け足すように、テイナと呼ばれた少女はそう言っていた。
「…」
しかし、シンクはそれらに対して何も言わず、そのまま部屋から出て行った。
「ムカッ、何あれ」
そんな態度のシンクに対して、またまた苛立ちを覚えたテイナはふくれる様にそう言った。

「…同じ“魔導師”じゃが、何時になっても奴だけは好かんのう…」

そして五月女もテイナに同感するように、そう言っていた。


バタン…

シンクは、ドアを閉めるとまた静かな場所を求めて歩き出した。

—動きはどうだったんだ?シンク—

するとその時、突然声が頭に響いた。しかし、それが当たり前なのかのように…シンクは表情を変える事もなく、ただ愉快そうに怪しく笑った。
「クク…、今日‘下’を“奴”に向けて放った」
そして彼はそう呟く。
—ほぅ…、“奴”のお手並み拝見というやつか?—
すると、頭の中で響いている声が楽しそうにそう言った。…その時、シンクは外が見える窓を見つけ、外を眺めた。その瞳に映るのは一つの列車…。

「…事が順調に運べている。奴がどれほどの力を“闇”から授かったのか…見ものだ」

そう言ってシンクは怪しく笑い、そしてその窓からゆっくりと離れていった。