ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Cross Wing   −契約者− ( No.4 )
日時: 2010/12/04 17:07
名前: スペード ◆lLTUeKKhVg (ID: S8b9wYSL)

二話『祓魔師と悪魔』




「…ところでお前、何故あんな所にいたんだ?」
あの後、リオンはコーヒー、僕はミルクコ—ヒーを飲みながら適当な話をした。すると、突然リオンは僕にそんな事を尋ねてきた。僕は手に持っていたカップを見つめながら、
「…、それはちょっと答えずらいですね…」
と言って軽く俯いた。言えない。言えるわけがない。だって、僕は…————
「…じゃあ質問を変えよう。お前、“悪魔”に襲われなかったか?」
リオンは腕組みをしながら、僕にまた質問をしてきた。
————“悪魔”とは…、僕たちの住む世界とは違う世界の“永遠の闇”という所から生まれる存在の事を言う。悪魔はこちらの世界の様々な動物と“契約”を結びこの世界に干渉してくる。その目的は、悪魔の力の源ともいえる“魂”を奪うためだ。特に、人間は感情を多く持っている生物なので、魂はどの動物よりも強くて大きく、そして悪魔に狙われやすい。
しかし、“悪魔自体”がこの世界に存在する事は許されない。それは、住む“世界”が違うからだ。…故に悪魔は“契約”を交わす。そして、悪魔はその契約を交わした動物の意思を乗っ取ることができるのだ。なので自我も動きも何もかも…その契約した動物の全てを奪う事ができる。そしてより強い魂を求め、悪魔はその動物を使って、人を、動物を殺める。欲のままに、何人も、何体も…契約した生物の体が壊れるまで永遠に、ね。
「——悪魔、ですか?」
僕は、その事を知っている故に…その質問をしてくる彼に疑問を抱いた。普通の人間は、悪魔に関ろうとはしない。無論、命を狙われるからだ。そう、悪魔はこの世界にとって拒むべき存在だから…。
「そうだ、俺の役柄的にどうしても関ってくる存在だからな」
…リオンの役柄…?どうしても関る?僕は首を傾げた。関る必要があるという事?それとも、関らなくてはいけないという事?…その時僕は、ハッとした。
「リオンさん…、もしかして貴方は—————」
僕は気付いてしまった。いや、気付かない人はいない。なんせ彼は、人にとってはまさに“救世士”ともいえる存在なのだから。

「もしかして貴方は————祓魔師(エクソシスト…!!?」

…———祓魔師、悪魔をこの世界から滅殺できる唯一の存在。人間の希望であり、人を救う全て。
「…まぁな」
彼は僕の言葉に涼しい顔でそう答える。…けど、僕は知っている。そう、皆が知らないだけ、…本当の祓魔師を。
…祓魔師は、『悪魔を滅する事は出来ない』。だから、その悪魔の契約者…、いや、悪魔の“イレモノ”を壊すんだ。つまり悪魔に取りつかれた動物を“殺す”という事———。
…でも、それは仕方がない事なのだ。もはや悪魔に意思を乗っ取られた動物は、悪魔から解放される事は無い。それは、どんなに強い動物も、人間も例外ではない。死ぬまで、また、殺されるまで悪魔にイレモノとして使われ、魂を刈り続けなければならないののだ。
「…そう、だったんですか…」
僕は声が出なかった。知っているから、祓魔師の本当の姿を知っているから。———本々僕も…‘祓魔師だったから’。
「…お前は、何故そんな悲しい顔をするんだ?」
僕の顔を見たリオンは、彼もまた悲しそうな顔で僕に尋ねてきた。…そんな顔しないで、君が悪いわけじゃないから。ただ、頭から祓魔師の事と、そして…その祓魔師だった彼女の…僕の“大切な人”の顔が離れないだけなんだ。
僕は俯いたまま黙り込んでしまった。どう言えばいいか分からない。何て言えばいいか分からない…。
すると、そんな僕の様子を見たリオンは次の瞬間、信じられない事を言った。
「…、それは“エリィ”の事なのか?」
———…一瞬、時間がとまった気がした。
「え…」
僕はただ本当に唖然とした。何故…リオンが、会ったばかりの彼がその事を知っているんだ…!?
「————悪い。…お前が眠っていた時にその名前を何度も言っていたものでな…」
すると、彼は目を伏せて、本当に悪い事をした、と、顔を俯せそう言った。
「…僕が、言っていたんですか…?」
まさかとは一瞬思ったけど…僕が彼女の名前を…?
『…ふ』
僕は虚しく、そして悲しく笑った。何故僕はそんな事を思ったんだろう。どんなに想っても、どんなに会いたいと願っても、僕と彼女…、エリィは会う事ができない定めであるのに。

…祓魔師の彼女と、悪魔に蝕まれた僕が一緒にいる事なんてできる筈なんてないのにね—————————

「…仕方ないよ、会いたくてももう会えないんだ。僕は、光を無くしたんだ…」
僕は一番高い所から、一番低い所に堕落した。光に一番近かった僕は、一切の光も届かない闇へと堕とされてしまった咎人なんだから…。