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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: /操り人形 . ( No.10 )
- 日時: 2010/04/17 14:29
- 名前: 小夜 ◆XJXbtjB8eQ (ID: 34QCmT3k)
「綾香、何をしているの、もう10分前よ」
そう言う母の声で我に返る。
急いで制服に着替える私を、母は何の感情も無い瞳で、ただ見つめていた。
推薦が決まった、全国的に有名な音楽学校への入学式の日。
母はそれをどんな気持ちで迎えたのかは知らないし、知りたくもないが、私は決して楽しみでもなく、誇らしくもなかった。
制服一式に身を包む。心なしか、それはひんやりと、冷たく私の身を包んだ。
クローゼット内の気温が低かったからだ、と思う気にはなれない。
これから私を支配し続ける、『欲望と執念』に、
『人形の洋服』に袖を通したからだろう。
「———東條、綾香」
人形の洋服に身を包んだ私は、人形の如く入学証書を受け取り、人形の如く一礼をする。
私と目があった校長の顔が、一瞬不可解な物でも見るかのような顔になったのは、気のせいだろうか。
全ての生徒が入学証書を授与し終わると、校長が、学校のシステムについて話し始めた。
この学校は、ピアノ科、声楽科、管弦楽科に分かれていて、その生徒の能力の向上に合わせてクラスが変わっていくものらしい。
初期段階のクラスは、新入生実力試験で判断される。そして、欠席日数があまりにも多く、授業、試験等で基準値以上の成績が取れなかった場合は、留年・留学、場合によっては強制退学もあるらしい。
保護者席にいる母と悠が見えた。
悠が、悲しそうな顔をして俯いている。
でも母は————笑っていた。
きっと嬉しいのだろう。
自分の子供の能力を、周囲に知らしめることができるのが。
———自分の玩具を見せびらかすことができるのが。
また頭痛が始まって、落ち着けるために息を深く吸うと、周囲の雰囲気に浸食されそうな気がして、恐ろしかった。
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