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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: /操り人形 . ( No.2 )
- 日時: 2010/04/11 16:10
- 名前: 小夜 ◆XJXbtjB8eQ (ID: 34QCmT3k)
「下手くそ」
再びピアノに指を走らせてから10秒、早速部屋に母の不機嫌な声が響く。
「オクターブの運指0点。右手と左手の動きの対応0点。転調の部分の雰囲気の変え方0点。
綾香、あなたって人は進歩というものを知らないのね。そこはひたすら練習あるのみと言ったでしょ?この前から全く変わってないじゃない」
ピアノに置かれた譜面の山を叩きながら、私を罵る母。
怒りを込めたその手は、無意識のうちに私の頬を叩いていた。
「————っつ・・・」
「音楽学校への推薦が決まったからって、調子に乗らないで。他にどんなレベルの高い生徒が集まってるか知ってるでしょ?そんなんじゃ、すぐに周りから見下される羽目になるわよ!」
ピアノしか置かれていない広い部屋に、母の声が反響して、まるで空から降ってくるように感じる。
頭が痛い。
指の疲れも限界に達していた。
でも、母が解放してくれる訳がない。
「じゃ、頭から、転調して20小節目の所まで、今日中に完璧にしておいて。でないと、この部屋から出さないからね」
不機嫌も露わな母の足音は、母が部屋を出て行った後も私の頭の中に響いていた。
時計を見る。午後3時。
普通の私の様な女の子だったら、今頃は友達と買い物に行ったり、部屋でくつろいだりしているのだろう。
私が、永遠に入ることの出来ない世界だ。
「・・・ここから、出して」
誰にともなく言ってみても、その声はやはり
広い部屋に虚しく響くだけだった。
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