ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 寂しい町、他人の手。 ( No.2 )
日時: 2010/04/18 01:12
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: fh.wbL8r)

第一話

ある日、学校にテロリストが現れたら……
なんて妄想をよく授業中してしまわないだろうか。
そのテロリスト達は自分の好きな人を人質にして、それで自分は謎の力に目覚め、テロリストをぼっこぼこにする。
はれてその子は僕の彼女になり……
所詮は妄想なのだが、とても楽しい。
まるで、映画でも見ているような気持ちになる。
もしかしたらそれは僕だけかもしれないが、とにかく僕はそうなのだ。
しかし今は授業中。四時間目で数学。
はやくお昼休みになれと時計をチラチラ見た。
しかし時計ばかり見ていても時間は速く進む筈はなく、僕は教室の窓から外を見た。
丁度今は二年生が体育をやっていた。
すぐに僕はあの人を見つけた。

 濱川陽子。

僕は帰宅部で、学校を出る途中に野球部で活躍している彼女を毎日見ている。
彼女は、活発で明るく、とても凄い人だ。
陽子さんは二年生なのに野球部のエースで野球部の後輩だけではなく、色々な人間から尊敬されている。
茶髪の髪を耳の下で短く切り揃え、肌は健康的な小麦色。男勝りで女子の方だけモテている感じだが、下を見てくれスタイルが凄い。
引き締まった体、胸はとにかく大きく盛っていて、程よく筋肉のついた腕と足……
男子からも「あれは反則、エロイ。おっぱいパズーカできるんじゃねー?」と言われている。
そんな彼女が僕は好きなのだ。
もちろん話した事などない。向こうは俺の名前すら知らないし、学年も違うから接点もない。
でもそれでも良いのだ。
どうせ僕は普通の人間。彼女のように特別ではないのだ。
僕は普通。陽子さんのように運動神経が良いわけでもなく、スクーシニャのように美形でもない。学のように頭も良くない。
普通の人間は普通の人間らしく、体力測定でABCのBをとって、テストで200人中100位を取って、将来はただのサラリーマンになって普通の人と結婚する。
榮島孝政は濱川陽子と吊り合わない。
なんてたって、僕の特別は両親から貰ったこのかっこいい名前のみ。
政は足利義政からとって、孝は誰から取ったか忘れた。
でも僕には不釣合いだよ……
初めて名前を呼ばれる時先生から「なんて読むの?」って聞かれるのは恥ずかしい。
ただ、それだけ。

「おい榮島、この問題……」

数学の田川がそう言い掛けた時、ちょうど授業終了のチャイムがなった。

「あぁ、もう終わりか。えー……じゃあ、この問題は宿題だな。
 次の授業までに、この問題はやっておくように」

そう言って田川は教室から出て行った。

「孝政、お前ラッキーじゃん!難しい問題をやらせることが出来なくて悔しそうになる田川の顔!あー、笑える」

手を叩いて笑いながらスクーシニャがやって来た。
左手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。
彼は音樂スクーシニャ。
名前から分かるように彼はハーフで、少しばかり日本人離れした容姿をしていた。
染めてもいないのに金髪の綺麗な髪、空のように青いガラス玉のような目玉に血管が浮かんで見えそうな程白い肌。高い鼻に長いまつげ。
それがフランス人形のように不思議で、綺麗な雰囲気を出し、
しかしながらも、髪はクセっ毛ならしく好きな方向にピョンピョン飛んでいて、愛玩動物のような雰囲気も出していた。
とにかく可愛い。ぱっと見ると女の子なぐらい。ていうか男なのが信じられない。

「まじで?授業中うわの空だったから気付かなかった。つーか、学どこ行った?」

僕は毎日一緒に昼食を食べる友人の行方が気になった。

「うわの空とか……その様子だとノートすら取ってねーだろ。
 ちなみに学は彼女が出来たから一緒の昼食はしばらく無理だと思うぜー」
「彼女……だと……俺にはまだ出来ず、学に彼女だと……」

僕は石造のように固まった。
しかし、その次の言葉が僕にとどめを刺した。

「しかも相手はなんとあの、濱川陽子先輩!」

その言葉を聞いた瞬間、石造のように固まった僕は粉々に砕け散り、砂となった。
もちろん実際には砂などにはなっていない。
生の人間のままだ。
しかし砂になれるものなら、僕は砂になりたかった。

Re: 寂しい町、他人の手。 ( No.3 )
日時: 2010/04/18 11:53
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: fh.wbL8r)

「そんなぁ……まさか自分の親友がぁ……」

帰り道、僕は目を涙目にしながらフラフラと歩いた。
スクーシニャは用事があって一緒に帰れない。
学は部活があるからいつもの様に一緒に帰れない。
あの後、放心状態になった僕は抜け殻のように食事を食べ、午後の授業を受けていたそうだ。
話ではめちゃくちゃ難しい問題を普通に解いていたらしい。
そして、英語のナタリー先生(29歳・独身)が僕をめちゃくちゃ褒めていたらしい。
しかし、アレがショックすぎて午後の事は何も頭に残ってない。

「マナブェ……」

仲峪学……
僕の幼稚園の頃からの親友だ。
彼はとても頭が良く、勉強が出来る人だ。
真面目で、ふざけたりするのをあまり好まない。
けれどそこが彼の良い所でもあった。

小学校5年生の頃、皆に嫌われている先生がいた。
性格が悪くて、小学生には解けない問題を出して、すぐに体罰を振るう。
ある日クラスのガキ大将が「あの先生の授業、その時間だけ公園で遊んでようぜ」と言った。
ただ一人を除いて、みんな賛成した。

その一人が学だった。

「たしかにあの先生は良い先生ではない。
 でもあの先生が嫌な先生なのと、授業をサボるのはまったく違うと思う。
 授業をサボるのはいけない事だ」

そう言って彼だけがその日授業を受けた。
そして、先生達に本当の事を全て言ってしまった。
もちろん学はその日から苛められる様になった。
けれど学は絶対にやり返したりせず、

「悔しいなら、最初からあんな事しなければ良い!
 何も解決しようとしないで逃げるなんて馬鹿と弱虫がする事だ!
 お前らはあの先生の事を誰かに相談をしたか?
 先生にやめてと言ったか?
 何もしてないだろ!誰にも言わずにただ愚痴だけを言い、先生には何も言わずに、ただ嫌がらせだけを毎日する!
 何故やり返したりなんかした!親に言ってしまえば解決した事を、どうして余計悪くした!」

これを小学五年生が言ったのだ。
僕はその言葉を一字一句覚えている。
小学五年生の僕は素直に学を尊敬した。
その後、学への苛めはなくなった。
僕は必死で学に謝った。

「ごめん、あんな事してごめん。
 僕とまた仲良くしてくれる?
 本当に反省してるんだ。ごめん」

ガキが思いつくかぎりの謝罪の言葉を言った。
学は失笑しながら「別にもう気にしてないと言えば嘘になるけど、もう怒ってはいない」
そう言って許してくれた。
彼は僕よりずっと大人で誰よりも真面目だ。
校則の緩いこの学校で、髪をきちんと短く切り、制服をちゃんと着ている。
爺臭い、髪型気をつければモテるのに……とか言われているが、彼はそうなのだ。
同じ高校に入れた時は、嬉しかった。

その学が自分の好きな人の彼氏となった。

「陽子さん……真面目そうな人が好きなのかな……」

無個性な自分を見ながら呟いた。
あぁ、ショックだ。超ショックだ。
僕、立ち直れるかなぁ……

「そこの無個性な人、立ち直って下サーイ」

突然、後ろから声が聞こえた。

「え?」

僕は後ろを見た。
そこには見るからに怪しそうな黒服の男が立っていた。
体と顔を黒いマントですっぽりと隠していて、顔は分からなかった。

「あなた、妄想を知っていまスーカ?」
「は?」

男はこちらの様子など気にせず、スラスラと喋り始めた。

「もちろん知ってますヨーネ。
 授業中テロリストが現れ、そのテロリスト達は自分の好きな人を人質にスール。
 そしたら自分は謎の力に目覚め、テロリストをぼっこぼこにスール。
 晴れてその子は自分の彼女にナール……」

僕は顔が真っ赤になった。
いつ僕の頭の中を覗いた!と言う気持ちになった。

「妄想くらい、当たり前なんですよ。
 だから恥ずかしがらないで下サーイ。
 ですが、最近ちょっと大ヘーン」
「何なんですがあなた。
 その変な格好に喋り方……新手の詐欺ですか?」

僕は逃げ出そうと前を向いた時、

「まって、まだ行かないで下サーイ
 私の話を聞いてくれたら、妄想が本当になりマース」

僕はもう一度後ろを見て、

「それ、どう言う事ですか……?」

今、この瞬間……
僕の目はきっと輝いていた。