ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 絶対少女!! ( No.10 )
- 日時: 2010/04/19 19:37
- 名前: 夕月 (ID: FlOuqSl5)
「ただいまあ!」
日下部さんの研究所から歩いて、自分の家に帰宅。
あまり距離はないので、苦にはならない。
靴を脱いで、上がった瞬間。
「おかえりー、姉貴!」
弟の声がして、ふわふわとピーターパンのようにやって来た。
わたしの目の前で静かに着地する。
泉飛鳥。 いずみ・あすか。
十四歳で、わたしのたった一人の弟なのだ☆
そして、飛鳥は【飛翔少年】である。
遥かなる大地まで飛び、あらゆるものを浮遊させる能力者。
姉弟揃って能力者なんだよね。
「あれ、飛鳥? 今日は塾じゃなかったの?」
「……面倒くさくて、サボっちゃった☆」
無邪気な笑顔で笑う飛鳥。
自分で言うのもおかしいけど、顔と性格はわたしそっくりなんだ。
「ちゃんと行かなきゃ駄目じゃーん」
自分の部屋へと向かいながら、わたしも笑いながら言う。
階段の下で、飛鳥はまだ笑顔でいた。
「次はちゃんと行くってば!」
そう言い残すと、飛鳥は母さんのところへ行った。
◇ ◇ ◇
ぺきぺきぺき。 ぱきぱきぱき、ぱりんっ。
氷の割れる音だけがする。 空気も冷たい。
少年の口から、白い息が出る。
氷のように冷たいアイスブルーの瞳で、氷を睨みつける。
「だから嫌いなんだよ、くそ……ッ」
◇ ◇ ◇
「おはようございます、心音」
朝、教室に入るとわたしの親友が声をかけてきた。
ショートの茶髪に、優しげな瞳。
名前は香宮時雨。 かみや・じう。
常に敬語で、守ってあげたくなる女子ナンバー1。
だが、わたしや飛鳥と同じ能力者なのだ。
【時間少女】。
どこまでも時間を巻き戻し、繰り返し、止める能力。
「おっはよ、時雨」
「今朝はりあむと一緒じゃなかったのですか?」
「り、りあむ? 一緒に来るわけないよっ」
「……? そうですか」
首を傾げながら、時雨はそう言った。 可愛いなあ。
ぽやー、とそんなことを思っていると、
「おれは一人で来ているけどな、毎日っ」
背後から声がした。 驚いて振り向くと、そこには一人の少年。
サラサラの黒髪で、サッカー部所属。 モテモテ。
名前は藤堂りあむ。 とうどう・りあむ。
こいつも能力者で、【歪曲少年】。
存在するもの、運命ですら捻じ曲げ、歪める能力。
「りあむっ! 驚いたなあ、もう……」
「はいはい、ごめんね、心音」
ぽん、とわたしの頭に右手を置き、歩き去っていく。
それを見た時雨は、
「こここここ、ここッ、心音!」
噛みまくりだろう。
わたしにずいっと詰めより、少しだけ小さな声で、
「りあむと心音はッ、おお、お付き合いとかを?!」
なんて、ありえないことを言うんだ時雨ちゃーん。
「時雨、それはねありえないよ。 してないからね」
「いえっ、でもさっきのは……!」
「……“絶対”に、時雨はこの話をしなくなる」
わたしは小声で、時雨以外の人に聞こえないように唱える。
ごめんね時雨。 ちょっと黙っててね?
時雨は一瞬だけ動きを止め、いつものように、
「えー、と? 時雨は何を喋っていたのでしょう?」
再び首を傾げ、言うのだった。
まったく、なんて可愛い奴なんだ。
◇ ◇ ◇
いいこと思いついちゃったかもしれない、かも。
さっきまでオレは苛々してたけど、吹っ飛んだ。
オレは再び、目の前にある氷を割る。
そして、あの人のもとへ走り出す。
これなら、これならやれるかもな……!
きっとあの人も喜ぶし、憎き兄も吹っ飛ぶだろう。
だってオレは【寒冷少年】なんだから。
全部、心だって凍らせることも可能。
ああ、この手で憎き兄を凍死させたい。