ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

出会った日 (1) ( No.5 )
日時: 2010/04/25 13:39
名前: 空色 (ID: WPWjN3c4)

——第一話//出会った日//——


「待てコラァーっ!」

 どたばたとうるさい足音が響く。足音とともに、少女特有の高い怒声が飛んでいく。
 怒声を向けられている中学生ぐらいの少年は、呆れたような表情を浮かべている。

「お前、いい加減しろやぼけっ!」

 そんな少年を追いかけている先程の怒声の持ち主の可愛らしい少女は、外見に似合わぬ乱暴な言葉を吐き出す。
 少年はにやにやと笑いながらも、小さくため息をつく。

「全くー、なんでそんな怒ってんだよ恋架ぁー。反抗期か?」

 少女——恋架は少年のその言葉に、より一層表情を厳しくさせた。
 誰がどう見てもひどく怒っている様子の恋架に、少年は微塵の恐れも見せずからかう。

「お前は一回死んでこい! つーか反抗期なんてとっくの昔に過ぎたわっ!」
「反抗期あったんかい!」

 冗談のはずの少年の言葉に、恋架が怒りを込めて答える。
 少年はげらげらと笑い声を上げながら、即座に突っ込む。

 そんな二人の間に、一つの違う声が入り込んでくる。

「ちょ……恋架、炬愛! 走りまわらないでっていつもいってるじゃないですかーっ!」

 幼い子供の声。まだ女の子か男の子かの声かもわからない、それほどに幼い子供の声。
 そんな声のその人物は、やはり外見も幼すぎる子供だったわけで。
 それなのに雰囲気はどこか謎めいていて、声こそは子供だが言葉からは大人びた印象が与えられる。
 酷く不釣合いな、その少年——見た感じはどこからどう見ても少年だが、少年というより子供のほうが正しいだろう。

「九十九ぉ! あのねあのね、炬愛がね、あたしの——」
「取っておいた血を飲んだんだよ。別にそれぐらいで怒ることじゃねえだろ? なぁ九十九」

 恋架と少年——炬愛の言葉が次々と飛ぶ。九十九と呼ばれた子供は、少々困惑気味だ。
 だが九十九は大きなため息をひとつつくと、きっと睨みつけるように二人を鋭い瞳で睨みつけた。

 先程までは綺麗な白銀だった瞳は、血のような赤黒い緋色に変わっていた。

「——」

 ひっ、と恋架の息を呑む音。がたがたと体は震えていて、その恐怖は九十九へと向けられているものだと容易に察することができる。
 炬愛のほうも身が竦んでいるようで、息を呑むことはしなかったが、顔面蒼白だ。

 じわり。精神的に追い詰められる、殺気じみたオーラを放つ九十九。
 幼い外見からは想像もできないほど滲み出た殺気が、辺りの空気をなめらかに染め上げていく。

「——【断罪者】も、ご立腹のようですよ?」

 ふと、九十九から放たれた言葉。その言葉が発された瞬間には、もういつもの九十九に戻っていた。
 恐る恐るといった様子で、無意識にうちに下げてしまっていた顔を恋架と炬愛が上げる。

 九十九の後方に、床にぺたんと座り込みロリータ調の純白のスカートを広げている、少女。
 九十九とまるで同じようだった。幼稚園児にしか見えないその体型は、少女の醸し出す雰囲気とは見事なまでに合っていない。

「き、きはは、ははは、あははは、あはは」

 まるで壊れたカセットテープのように、少女の口からは冷めた狂った笑いが零れだしている。

「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい。つみに問うてあげようか? わたしが、裁こうか?」
「ごめんごめん、華。それだけは勘弁してぇ!」
「ごめんなさい。もうしません。すみませんでした」

 少女——華の言葉に、恋架と炬愛がひどく慌てた様子で謝りはじめる。
 炬愛に至っては、土下座まではじめる始末。

 けらけらと、そんな様子を九十九が笑いながら眺めていた。
 そしてふと笑いをやめると、透き通った声で告げた。

「【闇色カラス】が——暴走はじめました」

 その表情は、綺麗な綺麗な笑顔だった。



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