ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: コヤ ( No.2 )
- 日時: 2010/05/09 15:53
- 名前: 由愛 (ID: L6rZBPa0)
しばらく歩いていくと、ノアたちは小さな小屋にたどり着いた。
外見はただの丸太で作った雑な小屋だが、辺りはとても柔らかい雰囲気に包まれていた。
その理由は、これから会う人の正体で分かるのではないだろうか。
ノアは深く呼吸をしてから、無造作に取り付けてあるドアを三回、ノックした。
すると、はい、という少女の返事がして、もれなくその女がドアを開けた。
彼女は、綺麗な金髪を後ろのほうでくくり、真っ白なエプロンをつけている美少女だった。
彼女こそが、この世界の主人公、白雪だ。
まだ顔に幼さが残っていることから、まだあの女は来ていないだろう。
少女は首をかしげ
「どちら様?」
とノアに尋ねた。
すると、ノアはにっこりと笑顔を作って
「ただの旅人です。すみませんが、しばらくここに泊めさせていただけないでしょうか。
生憎道を間違えてしまって」
と答えた。勿論、これは物語を記録するための口実だ。
白雪は戸惑っていた。
まあ、当たり前のことだろう。
第一今はこの小屋の主がいないのだ。
泊めていいかどうかは、彼女には決められない。
おろおろしている彼女を見て、ノアはあたかも悲しそうにつぶやく。
「嗚呼、ダメでしょうか。ならいいのです。
実は、ボクはこの森の向こうにある城に住む王女に追放されたものなのです。
今は旅人として生きておりますが、もともとはあの城の召使でした」
そう言った途端、白雪ははっとして
「そうだったのですか? 実は私も同じようなことに逢いました。
だから、その気持ちは良く分かります。さあ、家の中に入って下さい」
と、同情するかのように答えた。
この反応は、ノアにとっては予想範囲内だ。
白雪だった同じ目に逢ったのだから、そこに漬け込めば潜入できる。
そうあらかじめ踏んでいたのだ。
しかし、その方法はラークが思いついたもので、
ノアにとっては人を騙すのはそれほど心地よいものではなかった。
ノアはそっと小屋の中に入った。
そこは、全てが通常よりも少し小さかった。
といっても、ノアは元々小さいほうなので、苦にはならなかったのだが。
白雪にテーブルに座っておいてといわれたので、ノアはおとなしく座っていることにした。
しかしその椅子も小さかったので、ノアには少し窮屈だったのだが。
座った途端、ラークがノアの肩からひょいと飛び降り、ノアに話しかけた。
「みろよ、ノア。オレのいうとおりだっただろ? あの女、あっさり入れてくれたぜ」
ラークの自慢話には耳を傾けず、ノアは静かにBookを取り出し、メモをすることにした。
‘‘The snow white lives in the hut of dwarfs.
The thing of the hut has a small all.’’
このメモは本当の記録ではなくて、あとから話を作るためのものだ。
ちなみに、この文の意味は、
<白雪は小人たちの小屋に住んでいる。この小屋のものは、全て小さい。>
ということだ。
メモをし終わったら、ちょうど白雪が部屋の向こうからやってきた。
手には、苺のジャムがたっぷり塗ってあるスコーン入りの皿があった。
「今、あるもので間に合わせたものだけど、よかったらどうぞ」
そんな白雪の声よりも先に、ラークはスコーンにがっつき始めた。
食べまくるラークをまたも無視して、ノアは白雪と話をすることにした。
「本当に、ありがとうございました。こんな見ず知らずのものを泊めてくれるなんて」
とりあえず、お礼を言う。
「そんなことありません。私も追放された身です。貴方の気持ちはよく分かりますわ」
そんなことをいわれると、自分への罪悪感が身をよぎる。
痛い心をむりやり押さえつける。
「では、貴方も使用人だったのですか?」
できるだけ、ばれないように聞く。
「……いいえ。私は王女の娘です。名は白雪と言います」
その悲しそうな声は、彼女自身に問いかけるような雰囲気があった。
「もしかして、あの白雪姫でしたか……いやはや、驚きました。
しかし、こんな美しい方だったとは!」
「そんなことありません。どちらかというと、貴方のほうがお綺麗ですよ」
二人はしばらく見つめあった後、同時に笑ってしまった。
こんなくだらない挨拶に疲れたのだろう。笑いはしばらく続いた。
「私のことは白雪って呼んで。後、敬語は使わなくていいわよ。貴方の名前は?」
笑いながらも、白雪は気軽に尋ねた。
「ボクはノアって言います……いや、ボクはノアって言うんだ。
歳は白雪と同じくらいと思うよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
そして、もう一度笑顔を浮かべた。
やはり、ノアにはこのほうが合っている。
嘘を突き通して黙ってしまうノアより、少しふざけて情報を集めるノアのほうがいい。
それに、記録もこのほうがしやすいだろう。
スコーン四個目に手を伸ばしながら、ラークは父親のように微笑んだ。