ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: シアワセ ( No.3 )
日時: 2010/06/13 22:11
名前: 由愛 (ID: L6rZBPa0)

白雪のいる小屋で住み始めてから三日目になった。
始めの会話ですっかり仲良くなった二人は、
意気揚々と楽しい話を繰り出していた。
しだいに空が真っ赤に染まってきた頃、小人達が帰ってきた。
小人達は、始めは陰気臭そうな顔をしていたが、白雪の説得により、
害の無い者だと分かったのか、快く迎えてくれた。
小人達の話も白雪に劣らず愉快で、
その日は夜が明けるまで楽しいお喋りをしていた。

その日から、ノアと白雪達の生活が始まったのだ。

ノアは小人達の手伝いをできるだけやった。
始めは、薪を運ぶことくらいしかできなかったのだが、
次第に慣れてくると、薪割りなどの重労働もできるようになった。
白雪の手伝いも、たくさんした。
もともと料理などは上手い方だったので、
ノアが台所を任される日も増えていった。

ノアは幸せだった。

今までたった一人で生きてきたノアの冷たい心は、
白雪達によって少しずつ溶かされていった。
ノア自身、それを感じていたのだろう。
日に日に、笑顔になる回数も増えていった。
しかし、その間ラークは寝て食べてばかりを繰り返していて、
すっかりふくよかになってしまったのだが。
ある日の夜。
いつものようにノアと白雪はテーブルで向かい合い、一番幸せな時をすごしていた。
二人が話す内容は、それほど個人に触れるものではない。
ノアはただの旅人として、白雪はコヤで暮らすただの女として、
今までにあった愉快な話を盛り上げていた。
ノアの人参が空を飛んだという話が終わってから、ふいに白雪が話しかけていた。

「ところで、貴方はいつまでここにいてくれるの?」

突然の話に、ノアは少し驚いた。

「えっと……そうだね、もう少しってところかな」

そう返した途端、急に白雪がノアの手をとった。

「もう少しってどれくらい? 明日、明後日?
 それくらいで帰ってしまうのなら、私、耐えられない……」

その言葉に彼女の深い悲しみが見えて、ノアは言葉を失ってしまった。

「私、貴方と……ずっと一緒にいたい。
ここでずっと暮らしてほしい。ねえ、だめなの?」

どうすればいいか分からなくて戸惑うノアに、
いつの間にかノアのそばにいたラークがこっそり話しかけた。

「ダメだよ、ノア。君には使命があるんだ。恋にうつつを抜かすんじゃないよ」

ラークの言葉は間違っていない。
しかし、ノアにはどうしてもその言葉が嘘のように聞こえた。

「ダメじゃないよ……でも……その、迷惑でしょ?
 ボクなんかが一緒にいたら」

これが、今のノアの精一杯。

自分の心を偽って、彼女を悲しませることが、どんなに辛いことか。

二人はしばらく黙っていた。

口を開いたのは白雪だった。

「迷惑じゃないわ。だから……考えておいて。お願い」

そう告げると、自分のベッドに戻っていった。

ノアはしばらく動かなかった。
ほとんど動かず、静かに涙を零していた。
喋らないノアにラークは独り言のように言った。

「断るんだよ、ノア。
さもないと、彼女にとっても迷惑だ。それに……明日なんだろ? あの運命の日は」

「分かってる」

暗く沈んだ声でそう返すと、ノアも自分のベッドに戻った。




分かっているんだ。
明日程でボクの仕事は終わる。
そうしたら、また別の世界へ行くのだ。
そうすれば、彼女を忘れられる。

きっと————



そうして運命の日は、静かに幕を上げる——!