ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: SURVIVAL GAME 第1回人気投票大会開催! ( No.321 )
日時: 2010/11/27 18:09
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
参照: http://noberu.dee.cc/bbs/dark/read.cgi?no

SIDE STORY③  「裏に生きる少年」

これは、俺がまだあの悪夢のゲームに巻き込まれる前の話—





12月18日。

確か、今日が冬休み前最後の出席日だったはずだ。

俺は予定表でそれを確認して、制服の袖に腕を通した。

遠野秋夜、と書かれた名札を机の上に置き忘れたことに気付き、慌てて取りに戻った。

「さてと…行くか」

あまり荷物の入っていないカバンを持ち、誰もいないアパートの一室を出る。

俺の母親は病弱で、今は病院に入院しきりだ。

もともとからだが強いほうではなかったけど、俺の父親が借金作ったまま家を出て行って以来、病気になりやすくなった。

まあ、どこにでもありそうな不幸な話ではあるけど。

そういわけで、俺は今図らずも1人暮らし状態にある。

もっとも、「とある事情」があって、今は家にすらロクに帰ってない。

今更ながら自分の不幸な身の上を再確認し、1人憂鬱になったところで、ポケットの中の携帯が鳴った。

「もしもし」

相手は確認しなかった。今俺の携帯にかけてくる人間は1人しかいない。

『俺だ、秋夜。今日は早く終わるんだろ? 悪いが、直接帰りにアジトに寄ってくれるか?』

「今日は休みじゃなかったのか?」

『そのつもりだったが、例の中国人マフィアどもが、ブツをスリやがったんだ。やつらのアジトを特定できるのはお前しかいないんでな』

俺は心の中でため息をつくと「分かった」と言い、電話を切った。

そう、これが「とある事情」ってやつだ。

俺は今、とある裏組織に主にハッカーとして協力している。

なぜかというと、母親の医療費が足りないからだ。

本来医療費を払うべき父親が雲隠れし、高校1年生である俺は毎月毎月病院に払うだけの財力などあるはずもない。

それをどこからかかぎつけた組織が接触してきた。

「俺達に協力しないか?」と。

組織は俺がコンピューターに関しては下手なプログラマーよりよっぽど技術があることも知っていたようだ。

無論、俺に選択肢はなかった。

その場で了承し、晴れて俺も犯罪者の片棒を担ぐことになったわけだ。

主な仕事は、同業者のアジトの特定。具体的には、出会い系サイトなどに仕掛けられている網をたどることで尻尾をつかむ。

まだ、一般人を襲えといわれるよりはマシだったけど、それでも仕事は胸糞悪いことだらけだった。

何度も生命の危機に晒されたし、この手で命を奪ったこともある。

しかし、それでもたった1人しかいない俺の母親のため、俺は、裏に加担し続ける。







時計を見ると、まだ8時前だ。

少し早く着すぎたようだ。

一応、それなりに名がある進学校だから、すでに教室内でも勉強しているやつはいたけど。

俺は誰に挨拶する事もなく席に着き、読みかけの本を開いた。

別に、友達がいないわけではない。昼になれば一緒にメシも食うし、休日—「仕事」がない日に限るが、町へ遊びにだって行く。

ただ、俺から話かけることがないだけだ。

それは多分、心のどこかで俺は友達を大事にしていないから。

幸いにも、その事実に誰も気付いていない。

「おっす、秋夜」

だから、こうして、普通に話しかけてくれる。

「おはよう、遠野」

話しかけてきた女、遠野茉莉(とおの まつり)は、相変わらず女子とは思えないほど下品な笑みを浮かべている。

そもそも言葉遣いからして、世間一般で言う「女子」からはかけ離れている。

ちなみに苗字が一緒なのはたまたまだ。

「んだよ、秋夜。お前も遠野だろ〜? それよりも、例のアレ、持ってきたか〜?」

「………これか?」

俺はカバンの中から「数学I」と書かれたノートを取り出した。

「おお、それそれ〜!」

遠野はまるで宝石でも貰ったかのように、ノートを受け取った。

「早く写して返せよ。ポストの中でいいから」

「りょ〜か〜い!!」

遠野茉莉は、有り体に言えば、バカだ。

授業は寝てばっかりだし、1ヶ月前の定期考査も、散々な結果に終わったと聞く。

それで、遠野は俺によくノートを要求してくる。

特に断る理由もないから、毎回貸してはいるが、さすがに回数が多すぎる気もする。

「またまた〜、秋夜君、茉莉に甘くしちゃダメだよ〜?」

「そーそー、茉莉は自力で何かをやることを覚えなくちゃイカン!!」

「なんだよ〜、お前らもよくノート借りてるじゃないか〜!!」

はあ…………少々騒がしくなってきたようだ。





無事に先生の話が終わり、ホームルームは終了した。

慌しく教室から出て行くやつもいれば、名残惜しそうに友達と話しているやつもいる。

俺は慌しく出て行く側だ。

何人かに声をかけられたが、ごめん急ぐからと、全て振り切った。

考えうる限り最速で昇降口に着く道をダッシュで進む。

誰もいないのをいいことに、階段の手すりに乗って滑った。

そして、最後の曲がり角を曲がり……








「あいたぁ!!」

「うわっ!!」






見事に誰かと衝突した。

頭をさすりながら目を開けると、遠野がいた。

「秋夜か〜…いてて、大丈夫か?」

「ああ、何とか…ごめん」

「ああ…大丈夫…あれ? 秋夜何か落としたぞ?」

遠野は俺のポケットから落ちたものを拾った。

「……あれ? 秋夜、携帯持ってないって言ってなかったっけ?」

しまった。

俺は組織に友達関係がバレるのを恐れて、携帯を持っているのを伏せておいていた。

「あ、ああ……最近買ってな……」

「なんだよ〜早く言えって!! じゃあさ、メアド交換しよ!!」

登録してから、消せばいいか。

俺は素直に交換する事にした。

「じゃあさ、奈央と美樹にも教えとくね」

「あ、いや……それはやめてくれ」

「え? 何で?」

数学の公式ならすぐに出てくるのに……俺は答えにつまった。

「あの、ほら…自分で聞きたい、と思ったから」

われながら無茶ないいわけだと思ったが、遠野は幸いにも納得したようだ。

「そっかそっか。じゃあ、後でメールするから。じゃあな!!」

遠野はそれだけ言うと、嵐のように去っていった。

生まれて初めて、組織の人間以外の、友達のアドレスが入った……









消さなきゃいけない、しかし消したくないと言う俺が、確かにそこにいた。