ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: SURVIVAL GAME 第1回人気投票大会開催! ( No.322 )
- 日時: 2010/12/06 15:31
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
- 参照: http://noberu.dee.cc/bbs/dark/read.cgi?no
SIDE STORY③ 「動き出す心」
「そこの角を右に曲がれ、そこが奴らのアジトだ」
パソコンのモニターを見ながら、電話越しの仲間に指示を出す。
『人数は?』
「表に2人。屋上に1人。中は最低でも5人はいる」
『了解。いい知らせを待ってな』
電話が切られる。
俺はヘッドフォンを外して、大きく伸びをした。
俺が情報を送り、組織の腕利きが現場に踏み込む。
この方法でもう半年は「荒稼ぎ」をしている。
標的は同業者のみとはいえ、これだけの犯罪行為をするのには、慣れたとはいえ、抵抗はある。
「よう、お疲れ」
物思いにふけっていると、後ろから声をかけられた。
「あんたか、ジョーカー」
組織のトップ、通称「ジョーカー」
この組織では誰1人本名を使わない。いわゆるコードネームというやつで、お互いを呼び合っている。
そうするのは、名前を知らないほうが万が一捕まったときに備えてのことだ。
唯一リーダーであるジョーカーだけが全員の本名を知っているらしいが、そんなものデータとして保管するはずがないし、する必要もない。
「お前が来てから、俺達は大もうけだ、感謝するよ、エース」
俺の方にポンと手を置き、ジョーカーはぞっとする笑みを浮かべた。
「エースか……ずいぶんと大それたコードネームだな」
俺がこの組織に入り、つけられたコードネームが「エース」
一応扱いは幹部らしいが、俺は裏組織の地位なんて興味は無い。
ジョーカーはよっぽどトランプが好きらしく、残る幹部のコードネームも「キング」「クイーン」「ジャック」と、全てトランプの絵札になぞらえている。
「そういうな。お前はまだまだ新顔だが、その働きは立派なもんだ。みんなも納得しているよ」
「言っておくが、俺はあんたらの組織での地位なんてどうでもいい。協力はするが、母さんが治ったら抜けさせてもらう」
「分かってるさ。そういう約束をしたからな」
ジョーカーは本気とも冗談ともつかぬ調子で言った。
ジョーカーは謎が多い男だ。
歳はまだ20代に見えるし、話し方も、ふざけた態度も、とても犯罪組織のリーダーとは思えない。
だが、時折見せる冷たい表情、目的の為なら仲間の死すらいとわない冷酷な一面。
果たして、この男の本性は、どちらにあるのだろうか。
ジョーカーの顔を見ていると、突然ジョーカーがこっちを向いた。
「どうした、エース? 俺の顔になんかついてるか?」
まあいいか、どうせ母さんの病気が治るまでの中だ。
「ああ……アンコがべったりと」
口元のアンコを慌ててぬぐっているジョーカーを見ながら、俺は静かにため息をついた。
作戦は成功し、敵組織は壊滅した。ブツとやらも取り返せたようだし、俺の仕事はここまでだ。
ジョーカーからいつもの口座に金を振り込んでおくように言い、俺はアジトを後にした。
外に出ると、もう真っ暗だった。
暖房が効いた部屋にいたせいか、寒さは感じない。
俺はピケットに両手を突っ込み、歩き出す。
町はすっかりクリスマスムードだ。あちこちでカップルがクリスマスの予定について話し合っているのが聞える。
恋愛などとは無縁な俺だが、そういう光景を見ると、クリスマスが来たという実感が沸く。
今年のクリスマスは、生まれて始めてたった1人で過ごすことになるだろう。
別に寂しいとも思わないし、嬉しいとも思わない。
ただ、俺にとってのクリスマスは、ただの12月25日として流れていくんだろうな。
心の中で苦笑いをして、歩くスピードを上げる。
人通りが多い道を抜け、ひっそりとした路地に出たときだった。
突然、ポケットの中で携帯が震えた。
ジョーカーが何か言い残したことでもあったのか?
ポケットから携帯を取り出し、画面を見てみると、そこには『遠野茉莉』と書かれていた。
「…………??」
あっけにとられながら、通話ボタンを押す。
「もしもし」
『もしもし、秋夜!? 茉莉だぞ〜』
「……ああ、どうした」
予想もしなかった相手からの電話に、上手く対応できない。
『あのさー、秋夜。1週間後って、ヒマだったりする?』
「一週間後?」
今日が12月18日だから……クリスマスか。
『そーそー、どうせ秋夜ヒマでしょ? だから一緒にクリスマスどーかなー……?』
最後の方がよく聞えなかったが、大体話は分かった。
「ああ、分かった」
『ホント!? ありがと!! じゃあ詳しくはまた電話するね! んじゃ!!』
遠野はそう言うと返事するまもなく切れてしまった。
おれはゆっくりと携帯をポケットの中に戻した。
「クリスマス………か」
思えば、このときすでに、悲劇は始まっていた。