ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: SURVIVAL GAME ただいま番外編 ( No.324 )
- 日時: 2010/12/29 21:24
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
SIDE STORY③ 「ナニカの前日」
12月24日。
今日はクリスマスイブだ。
だが、俺はアパートで朝からこもりきりで、テレビを見たりゲームをしたりしている。
外に出ようとは思わない。それは一緒に遊ぶような約束がないからでもあるし、ただ単に寒いからでもある。
世間にとってはクリスマスイブ、俺にとっては12月24日。
強いて言えば、約束の日の前日。
それ以外の何者でもない。
そんな考えしかできない俺は、つまらない人間なんだろうか。
くだらない人間なんだろうか。
そして俺は、そんな人間でいいんだろうか。
自問だけが頭を駆け巡り、脳が見つかるはずもない自答を探す。
俺は、何をしたい?
テレビを見たいのか?
ゲームをしたいのか?
12月24日を、クリスマスイブにしたいのか?
それとも—
そう、いつだって答えは見つかってくれない。
イッタイ、オレハドンナニンゲンニナリタインダ?
しばらくの間、無の時間にいると、不意に携帯電話が鳴っていることに気付いた。
相手はジョーカーだ。
「もしもし」
『おう、秋夜。せっかくのんびりしているところ悪いな』
「仕事か?」
それならそれでいい、自問に縛られる事はなくなるから。
『いや、ちょっと報告する事があるだけだ。実は最近、また新しい敵が現れちゃってさ〜。潰す必要は今のところないけど、のちのち災いをもたらすようなら今潰そうかな、と思って』
「そうか。で他には? 何かあるんだろ?」
『相変わらず察しがいいな。実はその相手組織のリーダー、何と女子高生なんだよな〜』
「………そうなのか」
実際のところ、裏組織に協力している未成年は決して少なくは無い。俺も組織の手伝いをするようになってから、何人か仕事で同い年の連中にあったこともある。
けど、俺みたいに組織の幹部クラスになっているやつはいなかったし、ましてやリーダーなど聞いたこともない。
『で、その女子高生リーダーなんだけど……多分、お前も知っている人間なんだよな』
「………!?」
ということは、俺の高校の人間か……?
『秋夜、大丈夫か?』
ジョーカーの声で我に返った。
「あ、ああ。それで……名前は?」
『名前は遠野茉莉だ』
「何………!?」
遠野茉莉?
あいつが? あの、バカ丸出しの遠野茉莉が?
犯罪組織のリーダー?
信じられない。
『……やっぱり知ってたか』
「ありえない。何かの間違いじゃないのか?」
『そういわれると思って、さっきお前のパソコンにメールを送った。確認しなよ』
俺は急いでパソコンのスイッチを入れる。
早く起動してくれ。
「何で、何であいつが……!?」
『仲がいいのか?』
「うるさい! あんたには関係ないだろ!?」
『事によっちゃ関係アリだ。お前の私情で組織を壊滅させるわけにはいかないからな』
ようやく起動が終わり、マウスを操作してメールボックスを開いた。
メールをクリックする。
すると、そこには武器の取引をしている遠野茉莉の写真があった。
「……そんなことにはならない。今写真を確認した」
『そうか。間違いないな?』
「間違いない。遠野茉莉だ」
俺は吐き捨てるように言った。
『そうか、ならしょうがない。手を打つしかないな』
「手を打つって?」
悪い予感がする。
『分かってるだろ。消すんだ、明日』
「そんな無茶な! いくらなんでも—」
『やりすぎ、か? だが、これぐらいはしないとこの世界じゃ生き残れない』
俺は何も答えられなかった。
確かに、この組織が壊滅したら母さんは助からない。
けど、このまま遠野を見捨ててもいいのか?
『作戦はもう立てた。あっちに潜り込ませたスパイの情報によると、遠野茉莉は明日、どうやら高校生らしくデートの予定があるらしい。そこを狙って消すんだ』
「…………!!」
明日の、デートの予定?
それって、もしかして………
『どうした?』
「いや、犯罪組織のリーダーでもデートはするんだなって思って…」
『ああ、本当だよな。でも、俺達にとってはいい機会だ。別れを惜しむなら今のうちにな。ただし、作戦のことは言わないでくれよ。もちろん、お前ならそんなマネはしないと信じているけどね』
「ああ、分かってる」
ジョーカーは満足そうに「そうか」というと、電話を切った。
携帯を机の上におき、俺はため息をついた。
俺はどうすれば………?
頭を抱えていると、再び携帯が鳴った。
液晶画面を見ると、「遠野茉莉」と表示されていた。
心拍数が上がる。
俺は震える手で通話ボタンを押した。
「もしもし」
『もしもしー? 今大丈夫か?』
「あ、ああ……大丈夫か?」
『どうしたの? 何かあったの?』
「い、いや……何でもない」
思わず声が裏返る。
『なんでもないよね、絶対………でも嬉しいな? 私のこと心配してくれてるんだもんね』
「………え?」
遠野が何を言ってるか、一瞬分からなかった。
『ジョーカーも甲斐性ないよね〜? よりにもよってクリスマスに私の暗殺計画立てるなんて、ね?』
「……遠野」
バレている。遠野に、作戦が。
『私、これでも犯罪組織のリーダーだよ? 相手のリーダーの電話を盗聴なんて、当たり前だよね〜?』
「お前、本当に…」
『そーそー、でもね、安心して。秋夜とのデートはマジだから。明日の私は君のカノジョだよ?』
電話越しの声も、間延びした話し方も。全て。
何もかもが、遠野茉莉だった。
『じゃあ明日。楽しみに待ってるからね〜? あと、秋夜。私達の仲間にならない? お母さんのこと、私でも何とかできるよ? ま、明日までに考えといてね! おやすみ!!』
遠野は一歩的に電話を切ってしまった。
事実を受け入れるには、あまりにも時間がなさすぎた。
一体、今日は何の前日なんだろうか?