ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: SURVIVAL GAME なんと、参照2800!! 感謝! ( No.330 )
- 日時: 2011/01/11 22:30
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
SIDE STORY③ 「手紙」
「……今日は娘の為に、ありがとうございました」
遠野茉莉の父親が、喪主のあいさつを終えた。
今はクリスマスの2日後、12月27日、遠野の葬式が行われている。
俺を始め、遠野のクラスメイトはほぼ全員揃っている。
みんな、涙を流していた。
俺は1人だけ、平静を保っていられた。
もはや、涙は枯れてしまったのだろう。
ここにいる誰もが、遠野が俺のせいで死んだなんて知らない。
これからも多分、一生知ることは無いだろう。
葬式は滞りなく終了し、会場にいた人たちも徐々に帰り始めた。
俺も人ごみに混じって帰ろうと歩き出した。が、
「あ、ちょっと待ってください!」
誰かに呼び止められた。
振り向くと、そこにいたのは遠野の父親だった。
俺は人ごみを掻き分け、父親のもとへ行った。
「俺に何か?」
「君には一言礼を言おうと思ってね。娘のこと、いろいろとありがとう」
「はい………?」
俺は父親が何を言っているのか分からなかった。
「いや、娘が君の話ばかりするから…あの日も、娘と一緒にいてくれたんだろう?」
「ええ、まあ……」
「すごく楽しみにしていてね……告白するつもりのようだったけど、どうだったのかな?」
「あー……それは…」
俺は一瞬考えた後、力なく笑った。
「ええ、されましたよ」
「そうか。娘も満足だろう……警察が今、娘を撃った犯人を捜している。君も見つかるよう祈っていてくれ」
「……分かりました。ではこれで…」
どんなに祈っても、おそらく犯人が見つかることはない。
ジョーカーはそんなミスを絶対にしない。
俺は複雑な心境で、会場を後にした。
雪は未だに降り続け、かなりの深さまで積もってきた。
天気予報では、明日には止んでいると言っていたが、本当だろうか。
とりとめもない事を考えながら、家までの長い道を歩いていく。
「おーい、秋夜ー!!」
突然声が聞えた。
この声は…
「遠野!?」
俺は慌てて振り向いた。しかし当然ながら、誰もいなかった。
「幻聴……か」
俺は苦笑いして、再び歩き始めた。
それから30分ほどかけてようやく家にたどり着いた。
部屋の扉の前まで来て、いつものようにポストの中を見る。
一通だけ、封筒に入った手紙があった。
差出人の名前はなかった。
「………何だこれ?」
俺は封筒を手に、部屋に入った。
コートをハンガーにひっかけ、イスに座った。
封筒をあけ、手紙を見る。
最後のところに『遠野茉莉より』と書かれていた。
「遠野……!?」
俺は跳ね上がる心臓を押さえつけながら手紙を読み始めた。
『秋夜へ
秋夜がこの手紙を読んでいるという事は、もう私は死んでいるんだね。私がクリスマスに死んだら、この手紙を秋夜に届けてって仲間に頼んだんだ。
伝えたいことがいっぱいありすぎて、何から言えばいいかわかんないや。
まず言いたいのは、私が死んだからって、自分を責めないで。
私がどうなったって、それは私自身に下った天罰。
秋夜のせいなんかじゃないよ。絶対に違う。
あとそれから、恋をする事。
私との事は綺麗さっぱり忘れて、また新しい恋に踏み出して。
秋夜が辛いとき、悲しい時はきっと支えてくれるから。
大丈夫、秋夜そこそこカッコイイから。
それから、いつか組織を抜けたら、お母さんと幸せに暮らして。
秋夜は優しくて、面倒見も良くて、すごく頼りになるけど、お母さんに甘えることも大事だから、それを忘れないでね!!
ああもう、やっぱり全部は書ききれないよ〜
ええっと、じゃあ………最後に1つだけ。
さっき私とのことは忘れてって言ったけど、私の事は忘れないで。
いっつもじゃなくてもいい。たまにでいいから、私のこと、思い出して。
私にとって、秋夜との時間は宝物。
たとえ地獄に堕ちたって、この記憶だけは絶対に忘れない。
だから、秋夜も私のこと、忘れないで。
これが最後のワガママかな?
まだまだ言い足りないけど、この辺にしときますwww
秋夜、私君のこと大好きだよ。
大好きだから。
いつまでも見守っているから。
バイバイ
茉莉より
』
「遠野……」
かれていたはずの涙が、再びあふれ出ている。
「あ、ああ……うああっ…あ…」
俺は遠野を殺した。
こんなにも、優しい子を。
こんなにも、俺のことを好きでいてくれた子を。
こんなにも、俺が好きになった子を。
「うわあああああああああああああああああああああああ!!」
俺は頭を抱え、全てが尽きるまで泣き続けた。
まるで、赤ん坊のように。
いつの間にか、寝てしまったようだ。
俺が目を覚ますと、すでに朝日が窓から差し込んでいた。
俺は手紙をもう一度見た。
『私のこと、忘れないでいて』
その一文が、目に留まった。
—秋夜、いい加減私のこと覚えろよ—
いつか、遠野がふくれっつらをしながら言っていた言葉。
何故あの時、いいよと言えなかったんだろう。
今なら、言えるのに……
いや、今からでも遅くないか。
「ああ………忘れないよ…茉莉」
俺は手紙を折りたたみ、引き出しの中にそっと入れた。
その時、電話が鳴った。
ジョーカーからだ。
「もしもし」
『俺だ。遠野茉莉の組織にとどめをさす。アジトの特定をしてくれ』
俺は母さんを助けるその日まで、何でもやる。たとえそれが犯罪であったとしても。
そして、遠野との約束の為にも。
「ああ、分かった。今行く」
電話を切り、ダウンを羽織った。
小走りで玄関まで行き、ドアノブに手をかける。
「……あ」
俺はドアノブから手を離した。
携帯を取り出し、電話帳から『遠野茉莉』を選択した。
メニューから、削除ボタンを押す。
『「遠野茉莉」を削除します。よろしいですか?』
画面にメッセージが表示される。
「いいよな、茉莉」
俺は「はい」を選択し、再びドアノブに手をかけた。
SIDE STORY③ 〜END〜