ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 私、狂ってしまったのでしょうか? ( No.1 )
- 日時: 2010/07/14 18:57
- 名前: 樹 (ID: UumlEqfp)
【0】序章
—— 死にたいの? 死にたくないの? じゃぁ殺してあげるよ。 言葉なんてそんなものでしょう ——
トンッ
背中に冷たいコンクリートの壁が当たった。硬いその感触に小柄な体をビクリと震わせ、おびえた目をこちらにむける、ゾクゾクとした。
校舎裏の木々は繁々と生い茂り地面に広く黒い影を描き、時たま鉛筆のように持たれたカッターをイタズラに輝かせる。指先で鈍く光を輝かせながら、目の前でおびえる羊ちゃんを見てニヤリと歪に笑う。
「いや……だ、くるなっ……こないでくれ……もう、十分だ、俺が間違ってた……だからもう、やめてくれ」
力なく、体が壁を伝い地面に崩れ落ち、学生ズボンが土埃にこげ茶色く染まる。安座をするように立てられたひざが弱弱しく震える。その丁度ひざ小僧に当たるところから上は、刃物できりつけられたように無数に裂かれ、赤く染まった肌が露出していた。無駄なく、失敗無く、むら無く、真っ赤な血。
その姿を私はつまらないものを見るような目で見るけど、口だけは笑っていた。歪んだように笑っていた。
狂っている。
狂ったように、笑う。
「ヒャァッハハハハハ。アンタバァアアカ? 何がヤメテェだってェ? ハッふざけんじゃねぇよ。言っとくけど、私を呼び出したのはアンタだろ? サルみたいな肝っ玉の弱いあんたのためにせっかく私が“自殺ちゃん”お手伝いをしてあげようとしているのに……。ヒャッハハハアアアアア!! でも安心しテェ! 私がちゃぁあんと願いをかなえてあげるから。ヒャァアアア、ゾクゾクしちゃうわぁ。どうやって死にたい? なんならアンタをいじめてた奴等の前で殺してもいいわよぉ。って言うのはさすがにやばいから、死体だけポイって置いてあげるよ。イヤ————ン! 私ってやっさしィ! ねぇ? どうやって死にたいの? 自殺なんだからそれくらい決めさせてあげるわ」
「うわぁあああああ゛あ゛あ゛」
酷くかれた声がやむと同時に、目は虚ろに焦点が定まらなくなり、顔は真青になり体が震え、全身から血の代わりに大量の汗が流れ出る。
なぜだろう?また、ゾクゾクする。
「たっ、確かに……そのときは死にたいって、思っていたけど……えっと、今は……その、えっと俺、まだ、えっと、その……——っっぁ!!」
虚ろに泳いでいた目が、焦点を捉えた。イタズラに、光が、鈍く、その先端を輝かせる。
グチャァ
「ウガァアアアア」
「えっとそのえっとそのうるせぇえなぁ、何語いってんだぁ? アンタは。うじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじうじ、しやがって。ウゼェエエエんだよ。私ねぇ? 優柔不断な人ってダァアアイキラァアイ」
グリグリ ボキ ブチ
途中で声音を優美に変えながら、肩に突き立てたカッターを沈める、途中で何本も筋を切った。それでも、さっきのような叫び声は聞こえなかった。失神でもしたのかと思ったけど、いや、まだ目が動いている。
「叫ばないのかぁ、なんだかつまんないわ。でも、“まぁいっか”」
- Re: — 私、狂ってしまったのでしょうか? ( No.2 )
- 日時: 2010/05/05 16:14
- 名前: 樹 (ID: 9Q/G27Z/)
唇と目に合わせるように頭までも痙攣のように細かく、小さく震える。まだ意識がるといてっも、これではないのと同じ何なんじゃないか、フッと浅く息を吐いた。
「最後に、もう一度言っておくけど……死にたいって……死なせてくださいって……“あんたが言ったのよ”そこだけ、理解しなさい。“私のせいなんかじゃないの”」
「り、理不尽だ」
目線も動かさず、瞬きもせず、眼球が飛び出るんじゃないかってくらいめいっぱいに開ききってそこからだらしなく頬に線を描く両眼。コンナでそんな言葉が言えるとは思っていなかった。
全身の毛穴が開く感覚した。
「くるってる……狂っているよ、お前」
口の端がつりあがる。
目の端がつりあがる。
目がえぐれるほど浮き上がる。
頬がつるほど上にあがる。
息が上がってくる。
握り締めた手につめが食い込む。
足が粉砕するほど強く力が入る。
ブルリと、全身が震えた。
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ヒャァアアアアハハハ!
「全く、君は私を興奮させる天才だねぇ」
最っ高だよ!
悲鳴のようにそうさけんだ。
「でも、私全然狂ってないんだぁ残念ね。まぁアンタのその言葉に気の強さに免じて、特別コースにしてあげるよ。アンタはしあわせものだよぉお? 普通の人なんてグチャァで終わりなんだから……じゃぁ、まず右手からいこうか」
肩に沈めたカッターを引きづりだす。決して普通のではない、のこぎりのようなギザギザのついた特注品のカッターはズブズブ嫌な音で鼓膜を振るわせ、羊ちゃんの肩をも震わせながら肉を引き裂く。ゆっくりと、ゆっくりと、痛みを味わうように引き抜かれる。
「アガァア……ンァア…、あ゛あ゛……ハァハァッッッア」
麻痺した痛さに両手が地面を掴む。だらしなく涙を流し続ける目から充血の血が流れ込み、流れる涙を赤く染めた。
自分の肩を貫いたカッターの刃先を、瞳孔の開きかけた眼前に揺らす。赤く染まった刃、逆歯になっているのこぎりのような歯には、引き裂いた筋の赤白い紐と、それにくっつく裂けた肉片が引っかかっていた。それをそいつの前に楽しげに揺らし楽しむが、つかの間地面を掴んでいた右手甲を貫いた。
「うあああああああああああ゛ア゛アアアアア」
悲鳴が裏校舎にこだまする。
「なんだ!? 誰か居るのか?」
チッ
さすがガッコだけあって叫ぶと気づかれるよなぁ、私ってバカァア?
茂みを割って近づく足音に、眉をひそめチラリと羊を見る。形勢逆転だなっとでも言っているのか、それとも、安心しきっているだけなのか、ケラケラと勝ほこったような笑い方、なんだ、アンタのほうがバァアアカじゃないの?
「安心して、特別コースはできなかったけどチャァンと殺すことには変わりないから」
エヘヘヘヘヘヘ
かわいく笑ったつもりなんだけど、目の前の羊ちゃんはあのまま微動だもしなかった。最後ぐらい叫べばいいのに。そう思いながら、羊ちゃんの喉下を掻ききった。
- Re: — 私、狂ってしまったのでしょうか? ( No.3 )
- 日時: 2010/07/14 19:15
- 名前: 樹 (ID: UumlEqfp)
一キロほど走り抜けたところだった。
辺りが真っ赤な血に包まれる。
見えるもの全てが赤く染まり、昼にはその身を天高くから私達に向けギラギラと見せ付けていた巨大なリンゴもすでにその半分を地上に飲み込まれていた。
子供もよく来る一般的なごくごく普通の少し海の見える快適な公園に、ごくごく普通な高校生の女の子が、ブランコにのって夜と昼の移り変わりを感じていた。
“高校生がブランコ”の時点で少し違うような気がするけど、でもそれは【君の】常識であって、【私の】常識ではないから。
せめてもの抗いに、最後の最後まで赤く熟したその赤を水平線に残し、命を尽くす。最後まで貪欲に、最後だから貪欲に。
「まるで人間だよな。ヒャハハハ」
全く世界は、強欲すぎるぜ
「全く世界は、強欲すぎるね。でも、それにもまして君は本当に変わってる」
誠実そうな青年の声。でも、私の常識上じゃぁ全く反対の悪魔のささやく声にしか認識し切れなかった。
「イヒヒヒヒ」
「今日もまた縁があったみたいだね、リア」
水平線に残された赤い光が消え、真っ暗な空と半分もかけた月が、静かに光りだす。その明るい赤の光と暗い黄色の光の移り変わりを身にまとわせて、青年が此方に歩み寄ってくる。後ろか前かも分からないような長い前髪が生ぬるい風になびき、その下に隠されたダサい眼鏡を輝かせる。正直私はその髪の毛がうざったくてしょうがなかったがあいつのポリシーらしい。オタクの会でも入っていらっしゃるのだろうか。
ヒャハハハハハッ
「ヒャハハハハハ!! イヤーン、毎日のようにあっているのにそれは無いわダーリン。私なんてもう一生会わないと思っていたのに私感激すぎて今すぐ死にテェ気分になっちゃったぜぇ?」
「フンッ。どうぞご自由に。僕も君なんて早く死んでしまったほうが世界平和のためにはいいんじゃ無いかって思っていたとことだから。ほんと君って人は恨まれまくりの悪魔だよね。人間の皮を被った悪魔。どのくらいの人が君に関わってしまって、関わる終えなくなってしまって不幸になってしまったんだろう、そう考えるとあと十年後くらいに泣けてくるよ。もちろん、そのなかには僕も含まれているけどね」
「ダーリン乗り悪〜い。なんでそんな酷いこと言うのよぉ、私ぐれちゃうわぁ?」
私がそういいながら右手でこぶしを作親指だけたて、そのまま自分のくびを左から引く。しね。っていうゼスチャーだ。意味的に【殺してやる】って言うのも含まれてる。
ニヤリと笑いダーリンの方を見が見えたのはダーリンのオタクルックな長い前髪だけだった。
「おっとそれはご勘弁。面倒なのはもうこりごりだからね」
めんどうねぇ?
クスクス ヒャァアアハハハハ
- Re: — 私、狂ってしまったのでしょうか? ( No.4 )
- 日時: 2011/03/09 17:39
- 名前: 樹 (ID: LUfIn2Ky)
どこへ行こうとしているわではない。だから、別にそこに行く、と言うことではなかったし、とどまっている必要は無い。
自然に動き出す足に違和感は無く、いつ歩き出したかかもあいまいで、移りゆく景色の情報も、網膜から脳に運ばれていないようなふわふわした感じで————私は無意識に歩き出していた。
闇が夜を包み、家では人々が活気付づいて寝る前の体力消費にいそしみ始める。
無表情に歩き続ける女子高校生を、信号機もまた無感情に光を青から赤に変え、通り過ぎるいくつもの家々は彼女から背を向け暗闇に個々の形を隠し、木々も風も全くうごこうとしない。車はたまに通り過ぎるが、分かるものはエンジンの音と地面とゴムとがこすれる音。暗闇が色を黒にそめ、形は想像上にしか見ることができなかった。
それから、私が自然に動き出す足を止め、網膜の情報が脳に運ばれるようになったときには、周りは街灯のともる長い商店街だった。
どれだけ暗闇が夜を包もうとも、そのなかに光を入れられてしまえば、闇は簡単に死滅してしまう。光を生みだす太陽とは真逆。
いさぎ良い。存在しているのか分からないほどに。
「どうしたんだ?急に止まって」
「……」
横を向けば、長い前髪がチャームポイントの彼がそれに表情をかくしたまま電灯に無駄に厚いメガネを光らせた。なぜかいつも、この人は私の隣で歩いている。
「……ダーリン」
それでも
ダーリンと会うのはいつも偶然なんだ。今日のだって本当に偶然なんだ。会いたいとは思っていなかったし、会えるとも思っていなかった。ただ、必然的に偶然が重なっているだけで、どちらともそんなことを望んではいない。必然的……運命的とでも言うか。
クス
私は下を向いて静かに笑った。
「ダーリンはさ、この物語に何の意味があると思う?」
長い商店街が続く。相手が直ぐ横にいるのにもかかわらず、お互い常に前を見続けながら歩き続ける。
「へぇ、君もそんなこと考えるんだね」
「フフッ……それって私のことバカにしてんの? ……私は昔から意味の無い無駄なことをすることが大嫌いなんだよ?」
「よくゆうよ」
「…………。……だからさぁ、今私がしていることってさぁ意味があるのか無いのかどうなのかなって……」
「意味は無いね。君のしていることはともかく、そのことについては意味が無い。人が死ぬのに意味なんか無いんだからね。今現在、もし自分が死んだってそれ以上に新しい生命が生まれてきているんだ死んでも死ななくても同じだろ? それに、人がどう死のうが知ったこっちゃないさ、他人にとってかんけーないんだから人が死ぬのには意味は無いよ」
- Re: — 私、狂ってしまったのでしょうか? ( No.5 )
- 日時: 2011/03/09 18:01
- 名前: 樹 (ID: LUfIn2Ky)
違う。その答えは違う。違うというよりも、視点がずらされている。
浅く眉が潜む。焦れるぐらいに焦れったいその答えがどうしようもなく頭の中でさまよい、胸の中に何か引っかかるモノがあるように錯覚させてる。
ダーリンと話すとき、10個の話題中7つはいつもコンナ気持ちにさせられてしまう。だからか、私はダーリンと会うことはいいけど、話すことが苦手だ。
まぁ、別にこれでキライというわけではないのだけれど。
「……またお得意の視点ずらしかぁ。ずるいよ。……人が死ぬことなんて、私は聞いてないはずだよ?」
フフッと前を向いて顔微笑ませるが、私の目にはダーリンは映っていない。もちろん、ダーリンも同様にだ。写るのは長い商店街の道とそれを映す電灯の光。今まで散歩で相手を見ながら話した時はあっただろうかいや、考えなくてもいいか。歩くときは常に、そうだ。
あっでも、一回も無かったって事はそれこそ無かったな。
それも最初で最後だったし……
何かを言い出そうとしていたダーリンをさえぎるように私が口を開いた。
「……私が聞きたいのはね、このまま人を殺し続けてもいいのかってこと。……これで6人目なんだよ?……どうも警察もあせって無駄な動きをしだしてきているらしいし……テレビとかでも偽善ぶったオヤジと何も知らない一般人達がうるさく騒ぎ出しているし。ホント何も知らないくせに狂ってるみたいに話を進めてる。……“私達”はこんなにいい子なのに、ね? ダーリン」
質問つもりだったのだけど、ダーリンからの返答が来ない。
寂しいじゃん。でも顔は崩さないまま、愉快そうに笑う。
私やっぱりぐれちゃいそう。
やはり微笑みを崩さないまま……
「……死ぬことに意味が無いなら……殺すことにも意味が生まれてこないと思うんだけどなぁ、私は。それに……それじゃぁ生きることにも意味が生まれてこなくなる。 ダーリンは自分の存在まで否定するのかな?」
最後の言葉を強調するように大きくして、私は愉快そうに質問するが、ダーリンははなからそんな質問が無かったように、無視するばかりだ。
また、歯車のようによく回る口が開く。
「……まぁとにかく本題だよ本題。……もし、私が人を殺すのは楽しいから? と聞かれれば私はそうだと答えるだろうね。……実際に楽しんでるもん。でもそれだけの意味で人殺しをするほど私は堕ちてないよ。だって一番の目的は助けることなんだから。……ヘルプだよヘルプ。自殺のペルプ。……いいことでしょ? ちなみに、ダーリンの意見はココでは聞いてはいない。……生きたくなくても、強制的に延命させられてしまうこの糞みたいな世界に、終止符を打つ手助けをしているんだよ。……体が動かないで毎日が糞つまらないのに、周りに迷惑ばかりをかけているだけなのに、生き続け無ければならない人たち。……怖くて怖くてたまらなくて家の中にいるけどやはっぱり怖くて怖くてたまらないのに、その糞怖い恐怖から逃れられない人達。……生きてることがまるで死んでるのに、それを考える頭と意識と世界が存在するせいで、毎日が糞見たいににつらい。……そんな人たちをこの糞で糞で糞で糞な世界から開放しようとしているのが、私の目的。まぁ意味だったんだけど……なんかおかしかった。……みんながみんな糞な世界に漬かって染み付いている。……本当に死にたいと思っていない奴等ばかりだ。ほんと、本当に殺したいほど愉快だったから殺したけど、おかしいんだよ……っと、で? ……これについて、ダーリンはドウ思うの?」
やはり、顔は元のまま微笑を崩さない。
そして答えが出ないまま長い商店街がだんだんと短くなり終わるが、また、まだ続く道を歩き続けた。
終わっても終わらない道。かわいそうだと思った。迷宮入りだとは思うけど、なぜそう思ったのかは未だ分からない。
暗い道にでたらしく、後ろからの明かりが、だんだんと薄くなって足元が徐々に見えなくなってくる。
直ぐ近く以外はよく見えなくなったころに、4つの音響き渡っていた道に、2つの足音が寂しそうに響き始めた。
すぐに続けて何も聞こえなくなり、誰かがしゃべりだした。
「そうだなぁ……思ったことはさぁ君の言っていたことには、意味が無いってこと。確かに意味はあったけど、打ち消されている。今の状態では、リアの行為に意味が無い。っと僕は思っている。だが、その意味の無い行為に対して、民間や、警察が動き出しているってことは何かしらのいみを持っているからなんだよなぁ? でも僕にはそれがよく理解できないんだ。人が死ぬことに意味がもてない僕としては。もちろん、生きることの意味も分からない。なんで生きているのか全く分からない」
どこか変な、何かためらうような間をおいて、ダーリンが続ける。
「リアが殺しているのは、僕みたいなやつらなんだね。生きることに意味がもてないけど、死ぬことにも意味がもてない。それを世間が強制的に卑屈にさせて本当は死のうとは思っていないのに、死にたいと錯覚させられ、君にペルプされることになったってことだろ? 僕は、悪いとは思っていないよ。自分の意味も分からないんだ、他人なんて論外の範囲外。似てるって事は確かだけど僕が殺されたわけじゃあるまいしね」
スゥっと引きつっていた顔が崩れ、冷たくなった表情を動かさない。
ダーリンを殺してるようなもの。
そんなはずではない。
ちがう、そんなはずではない。
そんな意味が無いわけでもない。