ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 阿修羅姫と鬼神。(オリキャラ募集中です!) ( No.38 )
- 日時: 2010/05/08 10:34
- 名前: 薔薇薔薇娘 ◆Mu2zZKM5c. (ID: F35/ckfZ)
第九話「過去」
『止めて下さい! 私が、貴方方に何をしたというのです!?』
理由も解らず、殴られたり、蹴られたり、石を投げられたりの日々。
『奇妙な顔しやがって! 母さんが言ってたんだ! お前は後に災いを及ぼすって!!』
『出てけ!! この村から出て行け!!』
女子も男子も交ざって美麗を受け入れよとしない。大人たちも、美麗のことを快く思っていなかった。
『貴様らぁ!! 美麗から離れろ!!!』
迫力のある大声。それは、道を通っている大人を振り返らせるくらい大きなものであった。
『う、うわぁ!! 影虎だ!!』
『逃げろーっ!!』
影虎を見ただけで一目散に逃げて行く。
『美麗……。大丈夫か?』
地面に倒れている美麗の手を取って起こす。
『はい。影虎様のお陰で平気です』
土がついた高級な着物をはたく。
『そうか、俺の家で手当てしよう』
平気と言っているが、右頬は赤く腫れていて、唇の端から血が流れていた。足には痣もあった。
『……はい』
『痛むか……?』
腫れた右頬に氷をあてる。当時、影虎は10歳で、その時から人並み外れた武の持ち主であって、領土をめぐって戦が起きた時など、先陣を切って戦うほどの強さだった。
『平気です』
当時、5歳であった美麗もこの時から奇妙な容姿……。後に災いを及ぼすとされている容姿の持ち主であったため、恐れられていた。
『影虎……』
そこに、運悪く影虎の父が帰ってきた。
『父上!』
美麗を部屋に連れているなど、他に知れたら影虎まで非難されることだった。
『美麗もいたか……。ちょうどいい、お前に話がある』
『はい?』
『お前は5つだな?』
5つ祭り…。5つの少女を神の嫁にする祭りだ。と言っても、これはさっきの会議で決まったことで。
『災いを及ぼすであろう美麗を、神の嫁にするということで、神に最も近い場所で監禁して、飢え死にしてもらおう』という計画だった。
『はい』
『この村には、5つの少女が神の嫁になるという伝統儀式があってな。お前はそれに選ばれた』
伝統儀式なんて嘘。ついさっき決まったことだ。美麗、お前を消す為にな……。
『……はい』
『そうか、いい子だ』
唯一この娘の長所をあげるとしたら、大人の言うことには『はい』の返事だけで答える所か。
『父上! そんな儀式……!』
聞いたことがない。ひょっとすると、さっきの会議で美麗を消す為に決まったことなのかもしれない。
『影虎様、良いのです。神の嫁になるなど、こんな名誉なことありましょうか』
影虎が言い終わる前に、美麗がその言葉を遮った。
『っ……』
美麗が望むなら……。神の嫁になると言っても、飯など必要なものは与えられるだろう。
『……』
恐らく……。この伝統儀式は嘘です。私は読書を好み、様々な村のことは知っていますが…。5つ祭りなど聞いたことがありません。
『祭りは今夜だ。夜9時、この服を着て祭り場にこい』
『はい』
そして、夜9時。皆が喜びに沸いていた。『これで、災いの娘はこの村からいなくなる』と……。
『これより、5つ祭りを開始する。神の花嫁となる名誉ある美麗よ、祭壇に上がるがよい』
村長である影虎の父親が、司会を務める。
『……』
そして、長い着物を引きずって祭壇に上がる。白い着物を着て、顔には化粧を施し……。息を飲むほど美しい娘だった。
『美麗よ、行くがよい。この道が、神へと続く道だ』
その道の周りには、喜びに沸いた民が立っていた。
その中に、悲しそうで、悔しそうな顔をした影虎も立っていた……。
『……』
その道に軽く礼をし、ゆっくりと歩調を進める。
『……美麗!!』
美麗が影虎の前を通る時、影虎が美麗の腕を掴んだ。
『……!』
ふっと軽く微笑むと、影虎の手を掴み、その腕を離してもらった。
それは、とても長い出来事で……。そして、一瞬のように短い瞬間だった……。