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Re: いつかの君と儚い約束 ( No.2 )
日時: 2010/05/09 14:07
名前: 獅堂 暮破 ◆iJvTprGbUU (ID: D0RCrsH7)

#01 「自分」

雲ひとつない青空……とは言えないが、良く晴れた朝だった。
春の暖かい風が吹き抜ける。
「春、だなぁ」
そんな普通の事を呟きながら、俺は意気揚々と道を歩いていた。
風に流れる白い髪、青い右眼。
まぁ、この日本という国では珍しいだろう。
少し周りの視線が気になるが、仕方ない。

話変わって、本日俺は成人した。
満二十歳、酒も飲めるし煙草も吸える、そんな歳になった。
そして無事に就職し、これから新しい生活が始まろうとしている。
おかげでテンションも急上昇。
真新しいワイシャツにスーツに身を包み、会社へ入ろうとした時だった。

「動くなっ!!」

背後から聞こえる大きな声。
後ろを向けば、想像通りの人物が立っていた。
黒い目出し帽を被った集団、つまり強盗がそこにはいた。
この時期にそんな物被って暑くないのかな、なんて考えていた。
「うわっ」
急に後ろに引き寄せられ、頭に突きつけられるのはもちろんアレ。
拳銃ってやつ。
あぁ、俺ってホント運悪い。
入社当日に強盗に遭遇、人質にされるなんて、運悪いにも程があるだろう。
「はぁ」
思わず口から漏れるため息。
ため息は幸せを逃すぞ、なんていうけど今、まさに幸せ逃した感じだ。
会社員達は全員手を上げて床に座り込んでいた。
ドラマでも見ているような気分だ。
「早く社長を出せ!! この人質が見えねぇのか!!」
あれ、強盗じゃないのか。
社長を出せって事はリストラでもされた元社員の復讐か何かか?
受付と思われる女性は内線電話で社長を呼ぶ。
しかし実際は警察へ通報しようとしていたようだ。
素早い判断、さすが大物企業の受付嬢ってところか。
俺が関心していると、俺を人質にしている男とは別の男が動きを見せた。

バンッ——

発砲音と一緒に受付嬢が倒れこむ。
床に血が流れ、それを見た社員達の表情が恐怖で染まる。
俺自身も目の前で起きたその惨劇に開いた口が閉まらなかった。
「くそやろう。警察に通報しようなんざ思わなきゃ生きていられたのによぉ」
男の顔には笑みが浮かべられていた。
なんだ、コイツ。
人を殺して笑っている。
俺の心情は決して穏やかなものではなかった。
人間が死んで、
血が流れて、
それを見て笑う人間。
「手ぇどかせよ」
自分のものとは思えない低い声。
俺は男の持った拳銃を叩き落し、それと同時に男の腹に蹴りを入れる。
「ぐはっ」
後ろに倒れこむ男。
それを見た仲間達が一斉に拳銃を俺に向ける。
「な、何しやがんだくそガキ!!」
腹を蹴られた男がそう叫ぶ。
「ガキじゃねぇよ。これでも二十歳の立派な大人だ」
そう言って落ちた銃を手に持ち、弾を放つ。
男達の呻き声が社内に響く。
一瞬、そう一瞬の間に俺は周りにいた男達を撃っていた。
「急所、外してあるから安心しなよ」
俺は頬に付いた血を拭う。
「け、警察を呼べ!!」
社員のその声で俺は我を取り戻す。
「あ、れ……俺、は何、を?」
自分のしていた事が分からなかった。
女性が撃たれ所までははっきりと意識がある。
だが、その後。
糸が切れたように意識が薄まった。
自分の手にある拳銃、血で濡れた頬、倒れこみ呻く男達。
俺が、やったのか?

この時、
俺は俺が分からなくなっていた。