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Re: Monochrome World 【#01up】 ( No.3 )
日時: 2010/05/14 16:06
名前: 獅堂 暮破 ◆iJvTprGbUU (ID: D0RCrsH7)

#02 「雨岬」

警察を呼ぼうとした男性社員の携帯を何者かが取り上げた。

「警察ならもうここにいんだろ?」

俺は声のした方へ目を向けた。
「あれ、は……」
そこに立っていたのは黒髪の男だった。
黒いブレーザーのようなデザインのコート、
襟元には赤く光る蝶のエンブレム、
そして“処刑”と書かれた胸元のプレート。
「特別処刑班……」
テレビや新聞なんかでよく取り上げられている人物達の総称。
死刑囚、及び逃走中の犯人の処刑を任されていると聞いた。
俺が呆然と立っていると、黒髪の処刑班の男が近寄り目の前で手を上下に動かす。
「起きてるか?」
俺は目の前にいる男と目を合わせる。
深い青の瞳。
人殺しをしているとは思えないほど綺麗な透き通った瞳をしていた。
「貴方達は、処刑班の……」
俺の呟きに男は大きく頷く。
「そう、通報があって駆けつけてみればこの状況。これ、君がやったのか?」
そう聞く彼の瞳があまりに鋭くて、何もかも見透かされているような気分になり、俺は目を逸らした。
「んー……。そう様子じゃ、当たりか。おい、雨岬」
男の口から発せられた名前に俺は今まで俯いていた顔をハッと上げた。
「雨、岬?」
聞き覚えのある名前。
昔、よく口にしていたその名前。
美里 雨岬(ミサト ウサキ)——

「何ー……。俺今忙しいんだけどな」

奥から現れたのはやはり俺の知っている“彼”だった。
前と変わらない、長い黒髪に優しそうな黒の瞳、自分より遥かに高い身長。
そこにいたのは……俺の知っている美里 雨岬だった。
「雨、岬……兄」
彼は俺の声が聞こえたのか、目の前にいる男から俺に目を向けた。
「えっ!? 夜暮、ちゃん?」
俺の名前を呼ぶ声も、ちゃん付けで呼ぶところも、何も変わっていない。
変わったのは処刑班の制服を着ている、それだけだった。
俺を見つけて雨岬は駆け寄ってくる。
「夜暮ちゃん? 赤月 夜暮(アカツキ ヤクレ)? その髪の色も右眼の色も、見間違いじゃないよね」
少し興奮したような声でそう言う彼の表情はどこか嬉しそうだった。
俺も、雨岬と会えたことは嬉しい。
最後に会ったのは彼が就職した四年前の春。
今すぐにでも抱きつきたいくらいだ。
けど、雨岬の制服には処刑のプレート。
それは彼が処刑班であること確実に示していて、俺は複雑な感情に押されていた。

「おーい。俺は無視ですかー。放置プレイですかー」
俺を抱きしめるような形で顔をひょっこりと出した男。
「あ……ごめん、影近。感動の再会の方がインパクト大きくて忘れてた」
ふざけた様な声で雨岬が言う。
それにその影近と呼ばれた男は「はいはい、どうせ俺は影薄いですよー」なんて言っている。
やはり、彼は彼のままだった。
それに少し安堵し、俺は改めて彼らを見つめた。

冷徹
残酷
非情

この三つの言葉がどれ一つ当てはまらなかった。
それに、昔の知り合いもいるせいだろうか、警戒心は徐々に薄れていた。

「あ、一応自己紹介。俺は処刑班総長、風見 影近(カザミ カゲチカ)だ」
俺はそれに頷き、一応の握手を交わした。
こんな場面でこんなにのんびりとしていていいのか。
そう思ったが、どうやら彼らの仕事は終わっていたようだった。
まぁ、犯人は多分俺が怪我をさせてしまい、抵抗もしないから普通の警察機関に回されたのだろう。
「で、夜暮、だっけ? ちょっと俺達について来てもらいたい。あ、別に逮捕とかそういう訳じゃなくて、てかあの……」

「あー面倒だ!! とにかく車に乗れ!! 早く、ほら」

説明も何もされぬまま、俺は近くに止められていた車に詰め込まれた。