ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Monochrome World 【#02up】 ( No.4 )
- 日時: 2010/05/14 19:40
- 名前: 獅堂 暮破 ◆iJvTprGbUU (ID: D0RCrsH7)
#03 「あの日」
「ちょっ、いきなり何すんですか!!」
急に車に押し込まれれば、誰だって抵抗する。
しかも入社当日にこんな事に巻き込まれて。
もう本当に泣きたい。
「暴れんなって。別にお前に害を与えるつもりはねぇから」
影近が喚く俺の口を塞ぐ。
しかも本気で。
あ、なんか苦しい。息、出来てなくない?
これ死ぬかもしれない。
主人公三話目で死んでしまうかもしれない。
「影近!! 夜暮ちゃん、死にそうだよ」
「あ、まじだ」
雨岬の出した救い舟によって俺の命は助けられた。
「うぅ、死ぬかと思った」
酸素を思いっきり吸い込む俺の背中を優しく撫でるのは、雨岬……ではなかった。
「大丈夫か?」
俺を気遣ってくれていたのは深緑の髪色の青年だった。
俺と同い年か、もしくは少し上に見える。
物腰の柔らかそうな雰囲気を醸し出している。
「あ、ありがとう……」
俺がそう一言お礼を言えば、その青年は微笑んだ。
「あ、自己紹介してなかったね。僕は櫻井 紅馬(サクライ クウマ)処刑班の医療担当者だよ」
よく見てみれば、彼の格好は白い白衣にワイシャツ、整えられた服装、医者らしいと言えばそうだ。
「よろしくお願いします」
握手を交わし、俺は再びあのド馬鹿総長と向き合う。
「で!! なんで俺は急に拉致られなきゃいけなかったのでしょうか」
眉間に皺を寄せ、嫌味のような言い方をした。
それは自分でも分かってしまうくらいに。
「あー……。それはな、お前に興味が沸いたから、じゃ駄目か?」
本来なら「なんですかそれ!!」なんて言って反抗するところだが、影近の瞳が
あまりにも真っ直ぐ過ぎて、
俺は言葉を失ってしまっていた。
それを肯定と捉えたのか、彼は一言「よし」と言って仮眠体制に入った。
「特別処刑班のある警察本部まで少し距離があるから、夜暮ちゃんも疲れただろうから。ね?」
雨岬にそう言われ、俺は渋々も座席を倒し、眠りに入った。
*
雨が降っている。
じとじととした俺の一番嫌いな雨。
そんな日だっただろうか。
俺の、
大切な人達が死んだのは——
記憶に残っているのは
強く降る雨と、
木々を揺らす風
それに
永遠に続く紅い風景
そして、
地面に横たわる
大切な
大切な
人達の姿だけ——
苦しくて苦しくて
胸が潰れるんじゃないかってくらい走った。
真っ赤に染まった服のまま、
裸足のまま、
泣いたまま、
何も分からずただただ走った。
死んでいる人達の顔が見えない。
あれは誰?
そして俺は誰?
そんな事を思って走っていた。
幼い体でひたすら倒れるまで走って走って……。
あの紅い空間を思い出すだけで吐き気がする。
離れたかった。
あの場所から。
出来るだけ遠くに。
だから俺は走っていた——