ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: †___NIGHTMARE ( No.2 )
- 日時: 2010/05/15 19:23
- 名前: ユエ (ID: cRxReSbI)
第1話 意地悪な夢の手招き
「今日は、誰が来るのかな……?」
暗闇の中に一人、クッキーを口に銜えた少女が呟く。
腰まである長い白銀の髪に、どこか哀しげな銀色の瞳。
遠くから見れば、闇に堕ちた天使のよう。
「私が夢を魅せてあげるから───……」
彼女の表情は、意地悪く歪んだ。
◇ ◇ ◇
───19世紀、ヨーロッパ。
赤い薔薇の庭園に囲まれたとある貴族の豪邸。
【アヴェーユ家】
最も有名な貴族、アヴェーユ家の豪邸だ。
アヴェーユ家には今、一人の娘しか残っていないという。
2年前、アヴェーユ家夫妻が殺されたのだ……。
「ねーぇ、エドガー?」
肩までの亜麻色の髪に、翠の瞳をした少女。
アイレ・アヴェーユ。 15歳。
現在のアヴェーユ家の当主だ。
「何ですか、お壌様」
少し困ったように、でもどこか嬉しそうな少年。
綺麗な金髪に、透き通るような青の瞳。
アヴェーユ家の執事、エドガー・アボット。 16歳。
「いつになったら、お父様は帰ってくるのかな?」
無邪気な笑顔に、エドガーは戸惑った。
そして、泣きそうになるのを堪えた。
お嬢様は、2人が死んだことを知らない。 知らされていない。
誰も言うな、と上から命令されているのだ。
とっくに二人は、2年前に死んでいるというのに。
どうして、疑わないのですか?
「きっと、すぐに帰ってきますよ」
ちゃんと僕は、笑えたのだろうか?
お嬢様は子供のような笑顔で、
「ん、そうだよね〜っ!」
なんて。 お嬢様は、疑うという心がないんですか?
アヴェーユ家の使用人・執事の中では僕が一番若い。
そして、一番お嬢様と親しい。
僕はお嬢様が6歳の頃から、アヴェーユに仕えている。
「よーう、アイレ。 エドガー」
突然、お嬢様の部屋の窓が開き、少年が顔を出す。
僕そっくりな顔。 同じ金髪、青の瞳。
名前は、エヴァルト・アボット。
僕の双子の兄だ。
「エヴァルト!!」
「兄さん……! どうやってここに?!」
ニッと笑う、僕そっくりな兄。
「エドガーだって偽れば、簡単だろ☆」
そうやって侵入した兄。
その姿を見て僕は呆れてしまった。
だって、僕と同じ執事の服を着ているから。
双子ってこういうときに便利なのかなー。
「やっぱり、どっちがどっちか分からないよ」
お嬢様が僕と兄さんを見比べる。
ちなみに性格は正反対だ。
たまに、兄さんがこうやって侵入してくる。
それからは、楽しい3人だけの時間だ。
(その楽しい時間は、今日までだった)