ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 百物語図書館 〜 あなたのご所望は? ( No.1 )
日時: 2010/05/17 16:11
名前: バララ ◆1V5QpFfjiU (ID: xgraZn.Q)

第1話『無言の着信』



=阿形宅=

「ちょ、阿形さん。勘弁してくださいよ」

「いいから飲めよ。どうせ明日休みなんだからさ」

俺は阿形光弘。東京で工事現場の作業員のバイトをしている、フリーターだ。

今は同じ会社のメンバーで新人の歓迎会をしているところだ。

その新人の中の一人で柏原祐樹って言う奴がいるんだが、こいつ全く酒飲まないもんだからみんなで飲め飲め勧めてるとこだ。

「ですけど・・・」

「何だよ、阿形の酒が飲めないのか?」

「そうなのか、筒井?」

「い、いえ、そういうわけじゃないですけど・・・」

こいつ、なかなかに強情で、俺たちが言っても一向に飲みそうに無い。

仕方ない、ここは少し強引にでも飲ませてやる。

「ほぅ、そんなに俺の鉄拳を喰らいたいか、筒井よ」

「えぇ!? そ、そんなわけないですよ!」

「だったら、飲めるよな?」

「そ、そんなぁ・・・」

「筒井、ここは先輩たちの言うこといい聞いたほうがいいぞ」

「諦めろ、筒井。飲むしかない!」

「うぅ、分かりましたよ」

そう言って筒井は俺の持ってたジョッキを受け取り、注いであるビールを一気に飲み干す。

「やれば出来んじゃねぇか!」

「よくやったぞ、筒井!」

「意外といけるじゃねえか!」

俺たちは筒井のあまりにも見事な飲みっぷりに驚いて褒めまくる。

その後も、調子に乗って筒井にどんどんビールやら焼酎やらを飲ませていった。

帰るときにはすでにべろんべろんに酔っており、歩くのが精一杯のような感じだった。



=翌々日・作業現場=


「さってと、今日も仕事頑張りますか!」

「あぁ、気合入れてくか!」

俺が他の奴と気合を入れあっていると、誰かが「大変だ!」と言いながら事務所からかけ出てくる。

「どうした、そんなに慌てて」

「はぁ、はぁ・・・つ、筒井が、はぁ・・・死んだって・・・」

「「「「「「・・・・はぁ!?!?」」」」」」

それを聞いたその場の全員が一瞬の間を置き、驚きの声を上げる。

どうやら原因は自動車との接触事故。

轢き逃げではなく、轢いた相手がすぐに病院に連れて行ったものの、打ち所が悪く亡くなったらしい。

そして、俺らはその事故った時間を聞いて、血の気が引くほど、焦った。

その時間は、ちょうど俺があいつを帰してから数分後の事だったからだ。

もちろん、俺らの方にも事情聴取のため警官が来たが、余計なことは言わずに、軽い嘘を含めて大体のことは説明した。

「それじゃあ、彼は君たちが止めるのも構わずにどんどん飲み続けたと」

「はい、あいつ親元離れたのが嬉しかったのか、酒をがぶ飲みしてましたね」

「そうですか、ありがとうございました。今日のところはこの辺で失礼します」

「わかりました。警察も大変ですね」

「まぁ、仕方ないですよ。これが仕事なので」

そう言ってから警官は一礼するとすぐに去っていった。

「おい阿形、大丈夫かよ。あんな嘘ついて」

「仕方ないだろ。もしホントのこと言えば俺らに責任がくるかも知れねぇんだから」

「でもよぉ」

「大丈夫だって言ってるだろ。それに当の本人はもう死んでんだから。死人に口無しだ」

それ以降、その場で言葉を発するものはいなくなり、俺もさっさと着替えを済ませて家に帰った。



=数日後・作業現場=


「はぁ、仕事としてから食う弁当はやっぱ格別だぜ!」

「だな、今日も仕事終わりに一杯いかねぇか?」

「いいな、行くか!」

事故から数日がたった。

俺たちは、筒井のことを気にするようなことは無くなった。

理由としては、警察が単なる事故として発表したからだ。

それを聞いた俺たちは、ホッとした。

俺らに何かくるんじゃないかと言う想いを全員が抱いていたが、杞憂に終わったからだ。

「みんなどうする? 飲み行くか?」

もちろん答えはYESだった。





=阿形宅=

その夜、結局飲み足りないと言うことで、また俺の家で飲みなおすことになった。

みんな軽く出来上がってきたのだろう。

ほんのりと顔が赤くなっており、みんな感情が表に出ている。

泣き上戸の奴もいれば笑い上戸の奴もいた。

まだあまり酔いがまわってなかった俺はそれを見ながら笑っていた。




「・・・・・・んぅ、ヤベ、寝ちまったか」

俺は身体を起こしながら、時間を確認する・

「ん〜・・・1時半か、終電行っちゃってるよなぁ」

時間を確認してから俺は辺りを見回す。

みんながみんな、ぐっすり熟睡している。

終電が行った後な上、こうも見事に熟睡しているのを見た俺は、そのまま寝かせておくことにした。

「ん〜、まだ酔いが残ってるな」

そう思い、俺は玄関に向かい、靴を履く。

「少し風にでも当たってくるか」

そういいながら、俺は玄関のドアをゆっくり閉める。