ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 百物語図書館 〜 あなたのご所望は? 話のテーマ募集 ( No.13 )
- 日時: 2010/05/19 23:40
- 名前: バララ ◆1V5QpFfjiU (ID: B2mAVKR/)
第5話『贈り物』
「お父さん、早く早く!」
「ちょっと待ってくれ、愛衣」
「ダメだよ、時間が無いんだからね!」
私、市岡愛衣!
今年で9歳になる小学3年生だよ!
愛衣ね、今お父さんと一緒に買い物に来てるの!
何でかというとね、来週の日曜日が私の誕生日だから!
お母さんはね、愛衣が小さい時に死んじゃったんだって。
でも、寂しくないよ。だってお父さんがいるもん!
「それにしても、愛衣は何が欲しいんだ?」
「ん〜とね・・・・・・あ、あれがいい!」
そう言いながら、私は棚の一番上に置いてある大きなクマのぬいぐるみを指差す。
「えっと・・・・・あの大きいの?」
「うん、あれがいいの!」
私がそう言うと、お父さんが財布の中を見てる。
どうしたんだろ?
と、財布の中を見ていたお父さんが私の方を見た。
「愛衣、ごめんね。今日はちょっと買えないんだ」
「え〜!」
そんなぁ、今日買ってくれるって言ってたのに・・・・・・
「ホント、ごめん! 誕生日までには買うから!」
「ぶ〜! お父さんの嘘つき!」
それから、機嫌を悪くした私を何とかしようと何度も謝ってくるお父さん。
ふんだ! 暫く話してあげないもん!
〜翌日〜
「ふう、遅くなってしまったな」
私は市岡秋吉という、ごく普通のサラリーマンだ。
早く帰らないと、愛衣が待ってるからね。
「部長になんとか無理言って給料前借りさせてもらえた」
愛衣、喜んでくれるだろうか?
ハハ、来週が楽しみだなぁ。
さぁ、帰って早く晩御飯作らないと。
私は横断歩道の信号が青なのを確認して、渡り始めた。
瞬間、左からの衝撃と同時に、世界が反転した。
そして、私の意識は闇へと堕ちた。
「可哀想に、お母さんの次はお父さんが亡くなられるなんて」
「ホントよねぇ」
「それより、愛衣ちゃんどうするの?」
「なんか、おじいちゃんたちが引き取るって言ってたわよ」
「あ〜、その方がいいんじゃない? うち、家計厳しいから」
「うちもよ〜。子供たちの学費とかで大変よ」
「私のとこもよ」
「・・・・・・・・・・」
みんな、色々話してる。
きっと、私とかのことを話してるんだ。
お父さんが亡くなってもう数日が経った。
原因は、お父さんが横断歩道を渡ろうとした時、信号を無視して突っ込んできた自動車が激突したかららしい。
けど、そんなことどうでもいい。
お父さんが死んだ。
・・・・・・おじいちゃんとおばあちゃんが私と一緒に暮らしてくれるみたいだけど、そんなことどうでもいい。
お父さんが死んだ。
お父さんが死んだ。
お父さんが・・・・死んだ。
「・・・・・・お父さん、おとうさん・・・おと、えぐっ、さん、ひくっ、ぐすっ」
私は・・・・もうお父さんと会えない。
お父さんにだっこしてもらえない。
お父さんと一緒に出かけられない。
お父さんと話せない。
お父さんと・・・・・・仲直りできない。
「おと・・さ・・・ごめ・・ぐすっ・・・なさい」
私は泣いた。泣き続けた。
それを見た親戚のおばちゃんやおばあちゃんとおじちゃんは、私を慰めようとするけど・・・・
私が、大好きだった人。
その人と、仲直りしたかった。
だけど、私が変な意地を張ったから・・・
私が泣き続けてから暫くすると、玄関のチャイムが鳴る。
おばあちゃんが玄関に行ったみたい。
だけど、もうどうでもいいよ。
私も・・・・・お父さん達のところに行くよ。
そう決意したとき、おばあちゃんが私のところにやってきた。
「愛衣ちゃん、ちょっとおいで」
「えぐっ・・・・な・・に・・・?」
「いいから、いらっしゃい」
そう言って、おばあちゃんは私の手を引く。
もう、どうでもいいよ。
早く・・・お父さん達のところに————
「これね、今届いたんだけどね。お父さんから愛衣ちゃんにプレゼントだって」
————行きたい。そう思ってた。
ううん、そう思おうとしてたんだ。
でも、それを見て、そうじゃないって分かった。
「これって・・・」
そこには、この間、お父さんにおねだりした大きなクマのぬいぐるみが置いてあった。
「ごめんね、お葬式とかで忘れてたけど、今日は愛衣ちゃんの誕生日だったね」
「あ、そういえば・・・」
お父さんが死んだことで、私も自分の誕生日のこと・・・忘れてた。
私は、もっと泣きたくなった。
気付かされたから。
お父さんの為に死のうと思った自分が、馬鹿だってことに気付かされたから。
それを察してか、おばあちゃん達は部屋からそっと出ていく。
みんなが出ていくと、私は一層大きな声で泣き出した。
「おとぅ・・・さ、ん・・・」
私は少ししてから、なんとか泣きやむ。
お父さん達は、きっと天国から見てるはずだから。
そう思った時、クマのぬいぐるみがうっすらと光を帯び始める。
少しすると、光がぬいぐるみの隣に集まって、人の形になっていく。
あれ、と私は思った。
私、知ってる。
この光、誰だかわかる!
だって、この温かい感じ・・・間違いないよ。
「お父さん!?」
私がそう叫ぶと、光が一瞬眩く光る。
光がおさまると、そこにはお父さんが佇んでいた。
「おとう・・さん?」
『そうだよ、愛衣』
「なん、で?」
『愛衣がね、心配だったんだ』
そう言いながら、お父さんが私の頭を撫でる。
『ごめんな、愛衣。辛い思いをさせて』
「ぐすっ・・・ううん、大丈夫」
『そうか? 無理はするなよ。』
「・・・うん! うん!」
『あとな・・・お父さんたちの分まで、生きてくれよ』
「うん! 生きるよ、お父さんとお母さんの分も・・・絶対!!」
『そうか、良かった』
お父さんは、本当に安心したのか笑顔になる。
すると、少しずつ、お父さんが消え始める。
「あ、お父さん!?」
『ごめんな、もう時間みたいだ』
「おと・・さん・・・ぐすっ、えぐっ・・」
『愛衣』
私がまた泣き始めると、お父さんがそっと抱きしめてくれる。
『お父さんを・・・許しておくれ』
それを聞いた私は、一番言いたかったことを叫ぶ。
「お父さん!」
『ん?』
「お父さん・・・・・・
・・・・・・・・・ずっと、大好きだよ!」