ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 紅の花が舞う ( No.14 )
日時: 2010/05/24 21:18
名前: ユエ (ID: 4to6kJuE)

すう、と軽く下ろすだけで怨霊は真っ二つ。
何も叫ばずに、怨霊はサラサラと消えていく。

そして、桜の花が舞っていた。
これが鬼刀・百花。 斬った後は、桜の花が舞う。
藤堂家に伝わる、藤堂家の家宝の一つだ。

ちなみに、この世界に鬼刀はもう一つある。
よく分からないんだけど、ね。

「総悟、大丈夫……っ?」

わたしが駆けつけると、総悟の怪我は完全に治っていた。
真桜が治癒をする式神を出したからだろう。
ムスッとした表情で、総悟は座っていた。

「あーぁ、もっと強くならなきゃなあ!」

そう叫ぶように言うと、立ち上がる。
すると、真桜が総悟の前に立ちはだかった。

「だからってね、そんなことしたら駄目なの!」

怒っている為、真桜のまわりの空気が冷たい空気に変わった。
流石、陰陽師の娘だ。 怒らせると怖いんだよね。

「いつも最後は紅葉じゃないか。 
 おれの家は、怨霊を退治する家なのに」

その証拠である日本刀を強く握る、総悟。
さらに、真桜のまわりの空気が冷たくなる。
そろそろ止めなきゃな、と思った瞬間だった。

「───これ、クレハ!」

しゅんっと、上から小さな老婆がやって来た。
音もなく着地し、わたしの目の前に立つ。

乱れた白髪に、黄金の瞳。 
そして、二つの鬼の角。

これが真の鬼の姿。 白髪に黄金の瞳、角。
(わたしもやる気になれば、この姿になれるはず。)

「つ、月さん……」
急いで総悟と真桜が頭を下げる。

藤堂月。 わたしの母の母。 つまり、わたしのお祖母ちゃんね。
藤堂家第二代目の当主である。 ちなみに年齢不明。
鬼って長生きするからね。

「お前はまーた、人間の姿で退治したというのかッ!」

お祖母ちゃんは、鬼の姿で退治するように、とわたしに言う。
でも個人的に、鬼の姿は嫌いなので人間の姿で退治するのだ。
お祖母ちゃんなんか、年中鬼の姿だ。

「別にいいでしょ! 退治できたんだからッ」

「当たり前じゃッ、この子鬼め。
 藤堂家が退治できなくてどうする!」

藤堂家、藤堂家って五月蝿いんだよ。 まったく、もう。
隣では、総悟と真桜が呆れた表情で見ていた。

「わたしは人間の姿が好きなのーっ」

それだけ言い残して、わたしはビルの屋上へ跳んだ。
総悟と真桜も連れてくるんだった。
下からは、

「これ、クレハーッ!!」
と鬼婆の声がする。 
だからわたしは叫んでやる。

「クレハ、じゃなくて。 もみじ、だってば!」
再び地面を軽く蹴り、屋根を跳んで帰る。

クレハ、は紅葉と書く。
もみじ、は紅葉と書く。

わたしの名前は、とうどう、もみじ、だ。
クレハというのはわたしの鬼名。

お祖母ちゃんはよく、クレハと呼ぶ。
それが嫌だった。

◇   ◇   ◇

「しかし、相変わらずだな。 鬼ばーちゃん」

総悟がオレンジジュースを飲みながら言う。
隣にはわたしと真桜。

沈んでいく夕日を見ながら、三人で学校の屋上にいる。

「藤堂家って五月蝿いんだから、もう……!」

「でも、それは誇ることなんじゃないの?」

「全然。 平安から続く鬼の家系なんて……」

真桜は平安から続く陰陽師の娘。
総悟は代々怨霊を退治してきた息子。

わたしは平安から続く鬼の娘だ。
誇ることなのか、よく分からないや。

「でも、桜木四守護家なんだから仕方ないだろ」

そうだよね。 桜木町を護る家の一つだもんねー。
鬼と鬼と陰陽師と、退治屋。

怨霊なんか、いなくなっちゃえばいいのに!
なんて。 いなくなるわけないんだけどね。

「また愚痴ですかぁ、先輩たち?」

明るい声がした。 
わたしたちは屋上にある扉の方を見る。

そこには、黒髪をワンサイドに縛った少女がいた。
セーラー服で、中学二年生。

「水巳ちゃん……!」

椎名水巳。 言霊使いの少女。
たまにわたしたちと遊んだりする子だ。

「水巳は誇ることだと思いますよ?」

にゃはっ☆ と笑う言霊使い。
やっぱり誇ることなのかな。