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Re: 紅の花が舞う ( No.17 )
日時: 2010/05/25 22:21
名前: ユエ (ID: tuHQgCts)

『───元気そうじゃな、先代鬼姫よ』

白く小さな顔に、腰まである金髪。
だが、頭からは二つの狐の耳。 
人間ではない。 狐の妖怪なのだ。

「懐かしい名前を出すのぅ、桔梗よ……」

藤堂月は、小さく微笑んだ。
ここは藤堂家の小さな和室。 客が二人、招かれているのだ。
いや、二匹、と言うべきか……。

『白面金毛九尾の狐、桔梗が忘れるわけないでありんす』

ばさり、と九つある尻尾が揺れる。
まず一人目(一匹目)。

白面金毛九尾の狐、桔梗。
その名の通り、白い肌に金の毛をした狐だ。

強い妖力を持つ九尾の狐である。
年齢は百歳以上で、本人もよく分からないらしい。

『ボクも忘れないよ、伝説の鬼姫じゃん☆』

桔梗の隣で笑う、白い雪のような毛をした狐。
名前はツバキ。 銀色の瞳が小さく輝いた。
ちなみに白狐といい、人々に幸福をもたらす狐だ。

桔梗とツバキ、藤堂月。
ある意味最強の組み合わせである。

「ふ、鬼姫の称号なぞ………」

『娘にでもやったのかや?』

「琥珀のことか。 娘も孫も、鬼姫なんて言えないな……。
 まだまだ若すぎるんじゃよ」

琥珀、とは藤堂琥珀のこと。
紅葉の母であり、月の娘である鬼だ。

『孫……、紅葉のことかな?』

「クレハじゃ、ツバキ」

『でも本人は紅葉が良いらしいの?』

「いずれクレハになろう。 琥珀もそうだったからのぉ」

藤堂月は、庭にある小さな池を見つめた。
きっと昔のことでも思い出しているのだろう。

◇   ◇   ◇

「“氷”!」

水巳が言うと、総悟の目の前に大きな氷が現れた。
だが、総悟はアッサリと刀で斬ってしまう。

「二宮先輩、なかなかやりますねー……」

「今日は椎名が限界点突破するまでやるからな!」

「えぇっ、水巳死んじゃいますよぉ!」

ただ今、総悟は水巳を相手にトレーニングをしている。
それをわたしと真桜は遠くから見ているだけ。

「水巳ちゃん、大丈夫かなぁー」

「総悟ってばやりすぎなのよ。 相手は中二よ!」

たしかに……。
高校生と中学生のバトルって、かわいそうだよね。
しかも男と女。

「ま、言霊で何とかなるでしょうけどね」

意地悪く笑いながら真桜が呟いた。