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Re: 紅の花が舞う ( No.23 )
日時: 2010/05/31 19:00
名前: ユエ (ID: Am5TIDZx)

小さな和室の部屋に、一人の少年と大人の男が座っていた。
少年の表情は憎悪に満ち、大人の表情は明るく。


「じゃ、刀の説明でもしようか………」


この世に、鬼刀は二つしかないんだ。
一度使ってみたいものだよ……。

一つは、平安から続く藤堂家の女鬼が使っている【百花(ヒャッカ)】。

もう一つは、ちょっと行方不明なんだけどね……。
名前は、【桜花(オウカ)】。


江戸時代、藤堂よりも最強だった木下家の刀なんだけどね。
紫の瞳に白銀の髪をした、通称“白銀鬼”。

木下家最後の娘、木下魄という女鬼が使っていた刀さ。
百花と同じく、斬ると花が舞う。

「聞いたことがある名前だ……木下魄って」

そこで少年は喋った。
男はニヤリ、と笑う。


じゃあ、次は木下魄の話でもしようか?

江戸時代に生きた、鬼を狩る鬼。
そして人を経験し、愛し、人に近かった鬼さ。

まあ、今の藤堂の娘もそれに近いがな……。


「っと、もう時間がない。 帰るかな」

「また来て下さいね」

「───北條家にだけ鬼刀がないことを、藤堂にでも八つ当たりしとけ」

ようやく、少年は微笑んだ。
男は満足げな顔で外へ出て行く。

「この北條の名にかけて。
 同じ桜木四守護家である藤堂家を憎みますよ」


◇   ◇   ◇


結局、お祖母ちゃんには怒られなかった。
ギリギリセーフだったのか、体調が悪かったのか。

穏やかな表情で、お母さんが晩御飯を作っていた。

「おかえり、紅葉」

勿論、お母さんも鬼だ。 だが、人の姿をしている。
次期藤堂家当主、藤堂琥珀。

ちなみにお父さんは、鬼と人の半妖。

「ただいまー。 良かった、お祖母ちゃんいなくて!」

くす、とお母さんが微笑んだ。