ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Got Part -神の一部- 伍話up ( No.51 )
- 日時: 2010/06/13 19:28
- 名前: 輝咲 (ID: eHFPH3xo)
●1章 part七
男は手を上げ、零衣の肩に乗せる。
「まだ……近くに鬼が……潜んでいるかもしれない……。
ここから早く……立ち去れ……。後……鬼は……湖の方に行った……。あそこは……危ないぞ……。気をつけて……行けよ……」
「あ、あなたはどうするんですか!? このままじゃ……!」
「もう……いいんだ……。この……傷じゃ保たない……」
「まだ間に合います!」
零衣はTシャツの袖を千切り、傷口に当てて血を止める。しかし、あっという間にTシャツは赤く染まる。
「……あんた、優しいんだな……。死にかけの、俺なんかに……」
男は笑う。こんな傷を負っているのに、何故笑えるのだろう。
ものすごく痛いはずなのに。
「ぐふ……っ」
口から血が吹き出す。男は咽る。
「……! だ、大丈夫で──」
「もう無理だ……。内臓が、やられている……。それに、出血が酷いしな……」
「そんな!」
「まぁ……人生は、それなりに楽しめたしな……」
また男は笑う。死ぬのが怖くない感じだった。
「後……それと」
男は思い出したかのように言う。
「心を、大切にな……笑ったり、泣いたり、怒ったり……な。心を捨てたら『死』を表す……。
って……親から聞いたよ。急に何故か……それを言いたかった──」
なんとなく、悲しく思えた。
そして、男は笑いながら死んでいった。
「…………」
零衣は男が言った言葉が頭から離れない。
「『心を大切に……』」
不思議な言葉だった。
懐かしい感じがする。
「っ……!!」
急に左眼に痛みが襲ってきた。ズキズキする。
目の前の男の者の体と重なって、女の者が左眼に映し出される。
髪には零衣を同じく、髪は短く、前髪にオレンジ色のメッシュが入っている。特徴を探るが、暗くてよく視えない。
そしてまた急に、痛みが治まった。こんなにも早く痛みが治まったのは始めてだった。
「仕方ない……湖に行って、様子を見てみるか」
零衣はまだ違和感がある左眼を抑えながら、翼を羽ばたかせ、湖にまた戻った。
