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Re: Got Part -神の一部-  八話up ( No.56 )
日時: 2010/06/13 19:29
名前: 輝咲 (ID: eHFPH3xo)

●1章 part九

ガササッ……ガサッ……

やっと湖が見える場所に出てこれた。そして、すぐに近くの木の後ろに隠れる。ここから者影の正体を暴く。

ガサササッ……

者影も茂みから出てくる。女の者だ。キョロキョロ辺りを見渡している。追いかけてきた零衣を探しているのだろう。

(鬼じゃない……!?)

そう、『鬼』ではなかった。独特の黒いオーラも出ているわけでもなく、額から角も出ているわけでもない。
何故、一般者がこんなところにいて、零衣を追いかけてきたのか……疑問だ。
零衣は木から離れて、女の者の前に出る。

「さっき、追いかけてきた者ですよね?自分に何かようですか?」

「……!!」

女の者はこっちに振り向く。身長や顔つきから見て、遊衣と同じぐらいの歳に見える。髪は真っ黒の長髪。軽く、ウェーブがかかっている。服装は変わっていて、巫女服的なのを着ている。落ち着いた雰囲気の者だった。

(この者、目が……!)

女の者の目が閉ざされている。そんな者がよくここまで来たものだ。

「君……『鬼』じゃないよね……。アレ? 鬼の血の臭いがしたのに……」

女の者はブツブツと自分の失敗を言っている。零衣と同じ勘違いをしているのだろうか。鬼と思って追いかけてみたが、茂みから出てみると誰もいない。木からは自分より小さな女が出てきて勘違い……的な感じだろうな。

「鬼を追いかけて、どうしたんですか?」

「えっ……あ〜最近、ここらに鬼がいるという情報が入ってね。だから、私が鬼を『殺し』にきたんだ。」

手に持っている武器を零衣に見せる。長い刀で、黒味かかった光沢がある。遊衣と同じく、独特の刀だった。まだ、刃には血が付いていない。

「まだ、誰も殺していないんですね。」

「まぁね……。なかなか現れなくてさ、困ってるんだ。ねぇ、鬼見なかった?」

「えっと……見ていません。」

「そっか……だよね。」

残念そうに溜め息を吐いた。だるそうな感じだ。

「君、日が沈む前に村に帰ったほうがいいよ。鬼がウロウロしだすしさ。」

「はい……。」

女の者の言う通り、速く村に帰ったほうが良さそうだ。それに此の事、遊衣に報告もしなければならない。

「じゃ、気をつけて帰ってね。」

「そちらも……。」

「ありがと。」

お互い、手を振って見送った。
零衣の姿が感じなくなると、さっきとは真逆の顔つきになる。者を殺すような感じに見える。

「やっと見つけたよ……。こっちがどれだけ探し回ったか……。」

そう言うと、木の後ろから3人の男の鬼族が出てきた。
全員、多々の武器を所持している。真ん中にいた中年の男が前に出る。

「貴様、何故さっきの女を殺さなかった。わかっているのか? あいつも『鬼』だぞ。」

持っている棍棒を女の者に向ける。発した声は怒りが満ちていた。そんなことにも動揺もせず、静かに話す。

「知っていたよ。けど、まだあの子は子供……。もしかしたら、違う道を進むかもしれない。そんな子を無駄に殺したりしない。私が殺すのは成者した『鬼』だけ。」

「鬼族の未来は決まっている!! 絶対に鬼族を継がなければならないんだ!! あの餓鬼だって鬼族を継ぐんだよ!!」

男の者は切れた。顔が赤くなっている。

「五月蝿い! 誰がそんな事を決めたんだ!?」

一気に口調が変わった。女の者も切れた。しかし、顔は赤くない。武器を持っている手を硬く握り締める。

「勝手に者の未来を決めるな!! 御前等にそんな権利があるのか!?」

「くっ……!!」

男達は苦い顔をして言い返せない。
しかし、武器を構えて襲う準備をしている。女の者も武器を構える。

「あんたら全員、『死刑』だ……!!」

前に出ていた男が棍棒を振り下ろす。その攻撃を横に避け、長刀を首に向かって斬る。

ビシャァァ————

首が飛び跳ね、ゴロンと地面に落ちる。噴水のように出ている血は雨のようだった。
女の者はその雨にかかった。斬られた男はガクリと倒れ、血の雨が止む。
その光景を見ていた、2者は金縛りになっていた。

「次は誰が処刑されたい?」

「……!」

男達はその声を聴いた瞬間、背筋が凍った。
冷たく尚、怒りがこもったその声は恐ろしかった。
しかし、逆にその声の御陰で2者は我に返る。2者は目を合わせ、銃を持った男が空に向かって引き金を引いた。

パァン!

反射的に銃声がなった上を見上げる。その瞬間、女の者は「あっ!」と声を上げてしまった。
そう、これは『フェイント』だったのだ。それに気づき、視線を元に戻した時にはもう遅かった。
もう1者の男の者が刀を振り下ろしているところだった。
とにかく、長刀で攻撃を防ぐ。危なかった。1秒でも、フェイントの事に気づかなかったら、今頃腕が斬られていた。

「ちぃっ!」

奇襲が失敗して苛立っているみたいだ。
女の者は長刀に力を入れ、刀を弾く。男のバランスが一瞬崩れた。女の者はその隙を逃さず、回し蹴りを男の頭に打ち込む。男は吹き飛び、木に勢い良くぶつかり気を失う。そして、長刀を投げ、気を失った男の喉に刺さる。返り血のせいで、長刀の刃が真っ赤になった。
残った男に冷たい声で話しかける。

「あなたのせいで死に掛けたよ……。」

「知るか……!! あんな単純な罠に引っかかるほうが悪いんだろうが!!」

男はガタガタ震えて、両手で銃を女の者に向けている。味方があんな殺され方をされて怖くなったのだろう。

「まぁ、それもそうだね……。じゃ、君にはとっておきの『処刑』をしてあげるよ。私を騙した罰として……。」

「だから、御前が……ガハッ……!」

男はこれ以上喋れなかった。あっという間に間合いを詰め、男の頬に右の拳がめり込む。「ゴリッ」と鈍い音がした。そして、次々と男の体のあちこちに殴り、蹴りもいれる。

「ゲホッ……!!」

ついに男の口から血が吐き出された。地面にしゃがみ込む。咽て呼吸が苦しそうだ。
それに気がついた女の者は攻撃を止めた。

「あなた脆すぎでしょ。まだ、30発ぐらいしかいれてないよ。後、20発ぐらいは保たないと。それでもあなた、『鬼』なの?」

「……!! 煩えぇぇーー!」

気が狂ったのか、銃も持たずに女の者に大振りに殴りかかる。
女の者はそれを待っていたかのように、ニコリと笑った。
大振りな右拳を横に軽やかに避け、勢いをつけ女の者も右拳で顔に打ち込む。男の勢いと、女の者の勢いがあるため、力は強くなる。

ゴキッ……!

また鈍い音が響いた。今度は鼻の骨が砕ける。鼻血がボトボトと垂れる。

「ギャァァァーー!!」

男はえげつない声を上げ、苦しそうにもがく。口でなんとか呼吸をしている。

「そろそろいいかな?」

「————!!」

男は逃げようと立ち上がるが、女の者が手を伸ばし男の髪を掴む。念の為、右腕も掴んで、抵抗できないようにする。

「何しやがる……!?」

「決まってんじゃん。最後の『刑』だよ。」

『刑』という言葉を聞いた瞬間、男の顔が一気に青ざめる。抵抗をするがもう遅かった。
女の者は男を湖の前まで連れてくる。そして、掴んでいた頭を湖の中に突っ込む。

「……!! ゲホホッ……!!」

空気の泡が水面に溢れかえる。男は抵抗が出来ない。只、男はもがいて苦しむだけ。

「知ってた? 死に方で一番苦しいのは、『焼死』と『溺死』なんだよ。理由は『苦しみながら死ぬ』からだって。私の『命の恩者』から聞いたんだ。」

「ガホホホッ……!!」

男はまだ苦しんでいる。掴まれていない方の手で地面を叩いている。
そんなことも気にせず、話を続ける。

「あなたの場合、顔に沢山の傷があるからさ、結構水が傷に沁みてる筈だよ。鼻の骨も折れてるし。」

「ゲホッ……!!」

大きな泡が吹き出した。そして、叩いていた手が止まった。男は死んだ。
女の者は掴んでいた手を離す。立ち上がって、木に倒れている者に刺さっている長刀を引き抜く。
血は噴き出なかったが、傷口からは血がまだ流れている。

「やっと『処刑』が終わった。」

血がベットリ付いている長刀を振り払って血を落とす。服の内ポケットから、布のハンカチを取り出す。そして、ハンカチで長刀についた血を綺麗に拭き取る。
長刀の手入れが終わると、それを『体内』に直す。

「あの子……、ちゃんと家に帰れたかな?」

女の者の口調はまた、元通りになっていた。