ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Got Part -神の一部- 八話up ( No.57 )
- 日時: 2010/06/13 21:11
- 名前: 輝咲 (ID: qoVi4/mV)
●1章 part拾
零衣が村に戻った時にはもう、日が暮れていた。
予定よりも遅く帰ってきてしまった。間違いなく、遊衣に怒られる。
零衣は地面に降り立ち、家に入った。その途端、怒鳴り声が聞こえた。
「零衣! 何でこんなに遅いんだ!? 心配したじゃないか!」
カンカンに怒っている。久しぶりだった。遊衣がこんなにも怒っているなんて。
「ゴ、ゴメン姉さん……! 大変なことがあって。」
零衣は必死に謝る。早く、あの事が言いたかった。
そう、『鬼』が近くに潜んでいることだ。零衣にとっては一大事に感じた。
「ったく……。それより、大変なことって何だ?」
「『鬼』がこの近くにいるらしいんだ……。」
「何ぃ!? 『鬼』だと!?」
遊衣は驚きの声を上げた。髪をボサボサと触る。
これは遊衣の癖だった。苛立ったり、めんどくさい時にやる仕草だ。
本人はそんなことを意識をしていないらしい。
「うん。森の中で倒れていた男の者から聞いた。」
零衣は思い出す。あの時の出来事を。あんな死に方、可哀想だ。けど、笑って死んだ。それが目に焼きついて頭から離れない。
思い出したせいか、悲しくなって胸が苦しくなった。
「そうか……。ヤバイな。『鬼』がここに来たとなると、間違いなく私を連れ戻しに来たに違いない。」
現在、遊衣は19歳。後、1年もすれば20歳となる。
どの種族も20歳になると、成者となって、「動物」か「怪物」の種族を継ぐ。
遊衣の場合は昔、実家を無理矢理零衣と飛び出した為、鉄川家を継ぐ者がいなくなってしまった。
毎日、厳しい刀の訓練と楽しくない勉強の日々。そして、拷問を耐えるための訓練。そんな生活は2者は嫌だった。そして、家を出てきたのだ。
それはいけないと思い、連れ戻す為、度々刺客を送り、張り巡らしている。
つい最近、刺客達が村の近くに来ているという情報があった。
その時は村人達がなんとか追い払ったが、また来ているのかもしれない。
「姉さんはいいの? あんな家を継いで……。」
零衣は心配だった。家を継ぐのを嫌がって折角、ここまで来たのに。
また、あの地獄の家に逆戻りだ。
零衣はまだ大丈夫だが、遊衣が心配だった。
そう、一番被害を受けていたのは遊衣の方。遊衣の体のあちこちに拷問の後が残っている。
遊衣が鉄川家を継ぐ者。妹よりも沢山訓練等をさせられ、そして、苦しみ嘆いた。
零衣は昔の記憶がない為、その時の苦しみを覚えていない。
「もういいんだ。現実から逃げてばかりじゃ、駄目だしな。ちゃんと家を継いでから、またここに帰ってくるよ。」
遊衣は笑顔で言ったが、とても悲しそうな顔にも見える。
零衣は思う。どうして、こんな家系に生まれたのか……。どうして、こんなにも苦しまなければならないのか……。
もう、いっそ……この世界を壊せる程の力があれば。
そんな力が手に入れば、遊衣を救えるのに……。
零衣は心の中で、叶うはずのない夢を創った。