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Re: Got Part -神の一部-  拾弐話up ( No.85 )
日時: 2010/07/31 10:44
名前: 輝咲 ◆7kKwdRQzyk (ID: yLYdLExj)

●1章 part拾四

目を開ければ、目の前は只真っ白の風景で、何も無かった。
体を起こして、周りを見ても真っ白だった。
しかし、目を凝らすと遠くに、小さな淡い影が立っていた。
どんなに集中して影を見ても、顔が見えない。
こっちを見ている様子だった。

『こんなところで死ぬの?』

声が真っ白な世界に響いた。女の声だ。
何故か、此の声が懐かしく感じる。
昔聴いたことがある、そんな感じだった。
でも、何も思い出せない。

「誰?」

零衣は女の声の質問とは違う問いをした。
少し間が空いて答えが返ってきた。

『まだ、其れは言えない。けど、何時か「思い出す」わ。絶対に。』

「『思い出す』?」

零衣には訳が分からない。『思い出す』?一体何を?
5年前以前の記憶がない零衣にとってはチンプンカンプン。

『だから「生きて」。其れを思い出すまで。』

そう言うと、影は薄々と消えていく。
まるで、其れを言うために現れたように。

「待って! 訳が分からないよ!」

影はそんなの関係なしに、止まる様子はない。
消えかかった最後に一言だけ残して消えていった。

『大丈夫。私がいるから。』

その言葉を言い終えると、意識がまた飛んでいった。
今度は現実に。


ポロポロと木片が頭に落ちてくる。
穴が開いた天井から、満月の明かりが零衣を照らす。

(戻った……。)

あの事が嘘のように感じる。感覚が全くない。
後、痺れも消えていた。
月の光に鬼の男の影が月と重なって映る。
男がジャンプをして、零衣に棍棒を上に構えて落ちて来る。

(『生きて』。)

女の声が言った言葉。胸が変に苦しい。
けど、生きていれば昔を思い出せれる、とあの声が言っていた。
絶対に生きてやる。零衣は心に誓った。

「死になぁ!」

男がすぐ目の前に来ていた。棍棒と零衣の顔の距離が数センチのところで、

『殺りなさい。』

またあの声が聴こえた。今度は零衣に直接話しかけてくる。
勝手に体が動きだす。横に転がり、受け身をとって体勢を整える。
近くにあった石ころを掴み、男に向かって投げる。
石は見事に右目に命中。

「イギッ!」

意味不明な叫び声を上げ、両手で右目を抑える。
ボタボタと血が垂れる。まるで、血の涙のようだった。
男は最後の力を絞ってか、棍棒を思い切り投げてきた。
そんな大振りな攻撃なんて、軽々と避ける。
真下に落ちていた木片を手にとり、クルクルと手の中で回す。大きさは10センチ程。
零衣は男の近くに寄る。男は地面にしゃがみこんでいて、苦しそうに嘆いている。
零衣の存在に気がついた男は、急いで周りに武器がないかと、手探りで探している。
そんなのは御構い無く、零衣は木片を1回転させ、尖った先端で男の頭に突き刺す。

ブシュゥー

頭の傷から血が噴き出す。出血は少なかったため、血はかからなかった。
男は白目を向けてガクリと倒れた。右目からはまだ、血が流れている。

「——!! な、何をしてたんだ……自分は……!?」

ふと気がついた時には、手に赤く染まった木片が握られていて、目の前には男の死体が転がっているだけ。
女の声が「殺れ。」と言ってからの記憶と感覚がない。
どうしたんだ自分?胸の中ではその言葉が繰り返される。
真っ白の世界に行った時から、感覚がおかしい。
頭の中がグルグルとかき回されいるような感覚。少し吐き気がしてくる。
兎に角、血が染み付いた木片を投げ捨て、此処から走り去った。