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- Re: Got Part -神の一部- 拾弐話up ( No.89 )
- 日時: 2010/07/25 22:48
- 名前: 輝咲 ◆7kKwdRQzyk (ID: .pwG6i3H)
●1章 part拾六
そういえば、子供を抱えていた女性を助けてから、村人や鬼が見当たらなくなっていた。
はっきり言えば、誰もいない。
零衣と女の者だけしかいない気がする。
村人がいないのは多分、森の中等に逃げたのだろうが、鬼がいないのには納得がいかない。
もしかしたら、遊衣が捕まったのだろうか。
そう思うと、一気に焦りが出てきた。
早く見つけ出さないと。
村の広場に出た時だった。
ガサッ……
何かが、地面に落ちる音がした。
その音の方に振り向くと同時に、零衣は息が詰まった。
遊衣がいた。だが、それだけではなかった。
周りには、数者の鬼の死体が転がっていた。
首を斬られた者や、腹を斬られて内臓が出てきている者等、殺され方は様々だった。
遊衣の手には名刀・阿修羅が握られている。刃には勿論、大量の血がついていた。
「姉さん……!?」
出る限りの声で遊衣を呼んだ。
声には気がつかなかったが、零衣の存在には気がついた。
「あぁ……零衣か。少し予定より遅かったな。何をしてたんだ? 鼎は。」
「申し訳ございません。予定の場所に居られなかったので。探すのに手間がかかってしまいました。」
『鼎』と呼ばれた女の者は遊衣むかって謝罪をしていた。
何故、この女の者が姉さんと話をしているのか、見当もつかない。
鼎は遊衣の方へと歩いていく。
「ったく……。まぁいい。最終的には、やる事は同じだ。」
遊衣は笑みを浮かべた。
近くにいた死体の腹に阿修羅を突き刺した。
ビクンと死体が動く。そして、ガクリと首が落ちた。
「どうだ? 鬼が鬼を殺す光景を見て。」
「……。」
零衣は何を言ったらいいのか分からない。
初めてだった。こんなに遊衣が複雑な問いとしてきたのは。
そして、遊衣が者を殺している光景を見るのは。
有り得ない現状で、言葉が詰まってしまう。
「怖くて何も言えないか。まぁ、仕方ない。そろそろ本題に入るぞ。」
刺した阿修羅を抜き、血を払う。
一瞬にして、遊衣の目つきが変わった。
見たことのない表情だった。強者にしか出来なさそうな目つき。
緊張のせいか、握り締めた拳から、変な汗が沸いてくる。
「今から御前を『殺す』。首を当家へと持って帰り、私が『次期当主』となる。」
「えっ?」
遊衣が何を言っているのか分からなかった。
『殺す』?『次期当主』?
どうして自分が?どうしてそんなのになる?
頭の中は『意味不明』の言葉しか浮かんでこない。
「頭が混乱しているようだな。おい、知っているか?御前は鬼の世界では『有名』なんだぞ。『特別な子』として。だから、御前の首を当家に授ければ、多額な金と地位が貰えるんだ。私みたいな『追放者』でもな。」
「……嘘だ……。」
「本当さ。だから私の為に死んでくれ。そうしたら分かる。嫌でも。」
「嘘だぁぁ!!」
零衣は涙を流しながら絶叫した。
握った拳が震えている。
そして、怒りで狂った目で遊衣を睨みつける。
「おいおい……。怒るなよ。大丈夫だって。すぐに楽にしてやるから。」
「黙れぇ!!」
「マジ切れかよ……。たかが、『裏切られた』如きで。」
「はぁ〜。」とだるそうな溜め息が毀れた。
遊衣は髪をボサボサと触る。
「面倒だ……。早く終わらせるぞ。」
「はい。」
遊衣と鼎は其々、武器を構える。
一瞬で終わらせるつもりだ。
そんなことはさせない。でも。
——『力』がない。
自分の欲望の為だけに妹を裏切った者を『殺したい』。
そんな感情を表した時だった。
『あの女を殺したいの?』
また、例の女の声が頭に響いた。
この声が聴こえると、必ず不幸な事が起きる。
でも、聴こえてしまう。
「だから……誰だよあんた? 毎回自分に変なことをして。いい加減やめてほしい。」
零衣はあえて声に出さず、心の中で話した。
通じるか分からなくて少し焦ったが、すぐに答えが返ってきて安心した。
『それは無理よ。何故なら、君が「力」を欲しているから。それが無くならない限り、私は君に何度でも話しかける。』
「『力』を……。」
『そうよ。だからあげるわ。絶対最強の「神の力」を。』
「『神の力』……。」
『授かりなさい。そして、あの女を殺しなさい。』
意識が真っ白の世界へと引きずり込まれた。
そして、目の前には影が手を差し伸べている。
影の手には銀色のシンプルなデザインの十字架のネックレスが置かれていた。
零衣は恐る恐る、十字架を手に取った。
その瞬間、眩い光が零衣と影を包み込んだ。
『契約成立。』
