ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Got Part -神の一部- ( No.121 )
- 日時: 2010/08/26 14:24
- 名前: 輝咲 ◆7kKwdRQzyk (ID: gM9EmB37)
●2章 part九
「——衣。——零衣!」
「——あ。」
呉阿に肩を揺すられ、意識が今に戻った。
うっかり、あのフードの者が通った道を見つめていた。
「どうした? さっきから呼んでたんだぞ。」
「いや……何でもない。悪かった。」
そう言うと、視線を呉阿から逸らした。
はっきり言うと、頭が整理できなくて困っている。
夢に出てきたフードの者や、風景やチョコレートまでもが現実になると、流石に焦る。
「——そういえば、その瞳を閉ざさないのか? ずっと解放したままだろ?」
「……閉じ方を知らん。」
勿論のこと、左眼を閉じるのも、例の『声』がやってくれた。
さすがに、二度も助けてはくれない。
「『御前の場合』は、目を閉じて胸の中で唱えろ。『封印』ってな。なら、目が閉じる筈だ。」
「——『場合』? まぁいいか。」
少し、『場合』という言葉に引っかかったが、どうせ聞いても、『会社で話す。』と言われると思い、あえて聞かなかった。
(——『封印』。)
呉阿の言われたとおりに、瞳を閉ざし、その言葉を唱えた。
すると、イヤリングが次々と左眼を閉ざしていく。
あっという間に、当初のように元に戻った。
胸の炎が見えなくなって、左眼が気持ち悪いが。
零衣は無意識に手で、閉じた左眼に触れてしまう。
「さすがにそれじゃ目立つな。此れ付けとけ。」
そう言って、呉阿はスーツのポケットから、黒い眼帯を取り出した。
零衣が前まで付けていた眼帯とは違っていた。
目を保護するところは丸く、頭の後ろに紐で括る眼帯だった。
零衣はそれを無言で受け取り、頭の後ろで蝶々結びをする。
「れいちぇる似合ってるよ!」
「……は?」
零衣は言葉を失った。
いきなり、意味不明な名前で呼ばれたら、誰だって言葉を失ってしまう。
「『れいちぇる』……?」
「うん! 『れいちぇる』だよ! 『零衣』だから。」
飽きないのか、また満面の笑みで言ってくる。
私は飽きたんだがな。と零衣は胸の中で呟く。
(あ〜……面倒な奴を秘書にされたな。——クソっ。絶対にいつかアイツをぶっ飛ばしてやる。)
零衣は叶いそうにない野望を胸に刻んだ。
しかし、こっちには『力』がある。
——もしかしたら、五分五分かもしれない。
「やっと着いたぞ。」
「入ろ—!」
ボーっとそんな事を考えていると、いつの間にかあの会社のビルの前まで来ていた。
うさみはダッシュで会社に突っ込んでいく。
——改めてそのビルを見ると、一際目立つビルだった。
近くにあるビルよりも高く、数え切れないほどの沢山の窓が太陽によって白く輝いている。
零衣が突き破ってきた、入り口の自動ドアが直っていた。
「——もう壊すなよ。」
「え——!?」
耳元で呉阿にそんな事を囁かれ、戸惑いを隠せない零衣。
呉阿は何も無かったかのように、うさみに続いて会社に入って行く。
「……。」
また先を読まれたと思ったが、よく考えてみれば、ロビーで出会った、『四軌』という女がチクったのかもしれない。
つい胸の中で安堵の溜め息をついてしまった。
ふと空を見上げれば、零衣の真上には太陽が燃えていた。
反射的に眉を歪ませ、手を目の上まで上げ、陰を作る。
——暫く眺めた後、零衣も会社の中へと入って行った。