ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: MIRAGE ( No.11 )
日時: 2011/03/29 20:00
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第五話 誤解時々悪龍龍菜

 「七罪……ねぇ」
 悠花と蓮の会話を聞いて小さく呟く少女がいた。日の光を浴びて輝く偏り少し長いくらいの銀色の髪に右目を隠すように巻かれた布。見えている左目は透き通った青の瞳で、薄いピンクの短い浴衣のようなものを着ている。少女の名前は龍菜リュウナで“龍ノ一族”の生き残りである。
 「馬鹿らしいなぁ……このボクが人間の言うことを聞くわけがないじゃないか」
 龍ノ一族というのは魔法使い達がいなかったころ差別や非常に低い地位にいたものに自分たちの使う技術を教えた者たちの一族のことで、龍の技術が完全に魔法と呼ばれる現在になって、残っているのは西洋のドラゴンと東洋の龍、両方の血を引いた龍神ノ一族だけであった。それも生き残っているのは東洋の龍の地を強く受け継ぎ龍神と祀られてきた龍花リュウカと西洋のドラゴンの血を強く受け継いだ龍菜……後一人は東洋の龍と人間が交わった末に生まれた禁忌の子。
 そのうちの西洋のドラゴンは七つの大罪の憤怒に当てはまるものだ。七罪というのは簡単に分かるであろう、七つの大罪のことを短く言っているだけである。人間に解き放たれるということはその力を最大限に出せるようにしてもらう変わりに解き放った人物に従わなければならなくなる。いわば“契約”のようなもののことだと思ってくれればいい。まぁ大抵の場合は開放した力を従わせることが出来ず、自らが開放したものに潰されて終わるなんていうことが多いのだが。
 龍菜はさも楽しそうに笑った。その視線の向こうにいるのは、水の龍を作り上げそれに攻撃の指示を出す琉華の姿と、無言で魔法を展開させ水の龍を一瞬にして凍りつかせてしまった望の姿。蓮と悠花は龍菜の視線には入らない微妙な位置で口論を続けている。龍菜は小さな声で言う。「愚かな人間共……今の繁栄があるのはいったい誰のおかげ?」と。それは人間からは想像できない寿命を持った魔法使いからでも果てしなく感じる時間を生きた、者の言葉。
 龍菜は見た目は人間である。それは人間とまじ交わって生まれた子だからと言うわけではない。単純に本来のドラゴンの姿だと人間に攻撃されるのだ。大きな力を持ってはいるがドラゴンとしてはまだ子供で、使える魔法も少ない。まぁ魔方陣無しで魔法を制御できる点は魔法使いに勝っているのだが。それでもごく稀にいる“化け物”並の力を持った奴の相手をするのは少々酷だ。
 だから人間の姿をして生活をしている。そうすればほとんどのものは気付かずに人間だと思って接する。その辺も魔法で仕組まれているだけなのだが、並大抵の魔法使いでは感じることもとくことも出来ないようなものなため自然に生活を送ることが出来る。もっとも人間の姿で生活することを提案したのは龍菜の兄である龍花が人間とトラブルを起さないためにしたもので、初めの内は龍菜も反抗していた。
 しかし、“化け物”並の力を持った人間……まぁ正しく言えば自らの一族の中で唯一、流の血と人間の血を引く禁忌の子に右目を抉られてしまったのだ。流石にそんな経験をするのはもう嫌だったのだろう。それ以来は人間の姿をして生活するようになっていた。

 「おい、そこのガキ邪魔だ」
 グッと龍菜の肩を掴む者がいた。それは体格のいい中年で、ニタニタと不気味な笑みを浮かべている。龍菜は僅かに首を傾げた後、相手が自分の肩に触れていることに気付けば低く舌打ちをしてその手を払った。中年もその時点で言葉だけに切り替えて龍菜を押して強引に避けようとしなければ良かったのだ。しかし中年は龍菜を思いっきり押した。いくらドラゴンの血を強く引いていると言っても、子供は子供だ。人間の姿になっていることでその分、腕力等も人間に合わせてあるし、重さについても同じだ。あっけなく押されて尻餅をついてしまう。
 それが気に入らなかったのだろう、龍菜は鋭く中年を睨みつける。中年も中年だ。子供に睨まれたのが気に入らなくて「ああ、んだお前。喧嘩売ってんのか?」と言った。嗚呼、そんなこと言わずに黙ってその場に座ってしまえば龍菜も手を出したりはしなかっただろう。
 「喧嘩? おっさん何言ってんの? これは喧嘩じゃない。ただの一方的な殺戮ワンサイドゲームだよ。今の王族と、Sランクの様な、ね」
 龍菜はそう言って妖艶なる笑みを浮かべる。いつの間にか望と琉華の戦いは望が優勢の一方的展開を迎えていた。中年は馬鹿にするように笑って魔方陣をつむぎ始めた。それでも龍菜にとっては無駄な作業にしか見えなかった。
 「……馬鹿だなぁ。一方的な殺戮って言ったじゃないか」
 タンッと軽やかに魔方陣を完成させて呪文を呟き始めている中年の目の前に移動して、右手を相手の胸、正確に言えば心臓のあたりを狙って伸ばした。刹那龍菜の爪が鋭く伸びて中年の胸を貫く。完全に中年を貫いた爪には紅の液体が滴って地面へと落ちてゆく。あまりにもあっけなく終わってしまった遊びに龍菜はつまらなそうに息を吐き手を振るう。爪についた紅の液体が浴衣を汚したがその辺は気にしないで置く。
 近くにいた者たちは脅えて声を上げる。それに気づいた蓮は悠花を一旦放置して龍菜の元に走ってきた。もとよりこんな状況に出くわすのには慣れているのだろう。何の反応も示さずに脈をはかり呼吸を確かめた後龍菜を睨み付けた。
 「死んでる……犯人はお前?」
 蓮が問いかけるとほぼ同時、龍菜は地面を蹴って飛び上がる。そして「うん、だったら何なんだろうね?」と言って飛び去っていく。その姿を見て蓮は静かに呟く。「悪龍、龍菜、だな」と、静かでどこか悲しそうな声で……。