ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: MIRAGE ( No.12 )
日時: 2011/04/10 20:21
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: APpkXS4D)

第六話 誤解時々魔道書使い

 いつの間にか琉華と望の決着はついていた。琉華が余所見をしていたから注意のつもりで放った雷は容赦なく琉華に直撃した。本気ではないつもりだったのだがあいにく琉華は水を大元とした複数属性の魔法使い。どうやら雷をはじめ電気系統の魔法には弱いようである。一撃だけで泡を吹いて気絶してしまった。龍菜が起した問題を片付けながら見ていた蓮は情けないとだけ呟く。
 その後も淡々と試合は続いていった。輪廻は蓮の自体により不戦勝、優希は相手が女子にもかかわらず本気で潰しにかかり勝利。続いては春と月乃の番であった。月乃と春はあらかじめタッグとしてエントリーしていたので、二人一組での戦いである。それなのに表示されたのは一人の少年だけ。どうやらSランク魔法使いらしいが、見た限り月乃と同等かそれより少し上ぐらいの年齢のようだ。あのガキなめてやがる、なんて言う風に月乃が騒ぐのを輪廻がいいから、サッサととっちめて来いなんて言う風に言ったため、月乃と春しぶしぶフィールドに向かった。
 戦力で言えば月乃と春の方が数的に有利なはずだが、対戦相手の少年……オレンジがかった茶髪に、透き通った橙の瞳の少年、風蓮 要(フウレン カナメ)はいかにも余裕だと言うようにぱらぱらと本を捲っていた。服装は琉華と殆ど同じもので違いといえばズボンが半ズボンだということぐらいであろうか? 前髪はサイドで二つに分けて金色のピンで留めていた。
 「お初にお目にかかります姫様。ボクは風蓮 要、と申しますのです、どうぞ宜しくなのですよ」
 フィールドに現れた月乃と春に対し要はやんわりと笑みを浮かべてそう言った。あまりのよゆうっぷりにイラついたのか、普段温厚な春までもが「つっきー、あいつ潰そう。徹底的に」なんて言う風に言っていた。月乃もその言葉にあっさり頷いてやる気満々。結局潰しにかかる理由はむかつくから。……子供など総じて単純なものである。
 審判の声が響くと同時に動き出したのは春であった。目にも留まらぬ速さでいくつもの魔方陣を展開し、さらさらと呪文を紡ぐ。低い地響きと共にいくつもの木が姿を現した。
 「大いなる大地、原初神ガイアよ、我が魔力を糧に力を与えたまえ!!」
 それを見た要は僅かに首を傾げた後、手に持っていた本の一文を静かに指でなぞった。要がなぞった文字は赤い光を発し、ユラユラと要の周りを漂っている。静かな、それでいてはっきりとした声で「燃やせよ炎、全ては大いなる炎と鍛冶の神、へパイストスの力のもとに」と呟けば一瞬にして現れた木は焼き払われてしまう。春の方もあくまで要の属性を調べるために出しただけのようで抵抗するような素振りも、慌てるような素振りも見せない。
 「つっきー、なんか分かった? 春的には多分炎属性だと思うのだけど」
 春が手を要にむけながら言う。月乃は小さく首を振り「いや……妙だよ。コイツ春ちゃんの出した木々を燃やすほどの魔法を発動するほど魔力を作ってない……。呪文の形式もCランク以下しか使わない補強用のものに近いよ」と言った。小さな声で「何者だよ」なんて言う風に呟くのは蓮に回復してもらって、のんびりと見学中の琉華である。

 「……貫け光よ、大いなる光の女神、アグライアの名のもとに」
 再び要が本の一文を指でなぞる。それとほぼ同時に文字がまばゆい光を発して、要を取り巻く。そして次の瞬間には光線となって春と月乃を襲った。慌てて月乃の出した盾に防がれるも、目潰しにはちょうど良かったようだ。春も月乃もしばらくは何も見えなかったようである。
 再び、ほんの一文を指でなぞろうとしたとき、月乃が叫ぶ。酷く冷静さの欠ける声で「お前何者だ!? Sランクに光属性と炎属性の両方を持った奴がいるなんて聞いていない」と。それを聞いた要は薄笑いを浮べて、腰に手を当てる。それは挑発……まだ分からないのか? とでも言うかのように月乃たちを嘲笑う。嘲笑いながら、月乃と春の目が回復するのを待つのは隙を突いたりするつもりはないのか、ただの自分は単発属性ではないということを証明するためのデモンストレーションのつもりだったのか……。
 フウッと要がため息をつけば本が何ページか勝手に捲れた。また一文をなぞる要を見て今度は春が叫ぶ。月乃とは違う伝えるための言葉ではないもの。……呪文である。一言、言葉を紡いでいくのと同時に幾重にも魔方陣が展開されていく。それを見た要は誰に向けるわけでもなく、あんなに多重に魔方陣を使ったら魔力の消耗が半端ないだろうにと呟いた。
 「さぁて、一応正体を明かしておきましょうか? Sランク唯一の魔道書使い、なのです」
 発動されたのは無数の蔓が自然に関する様々な属性、主に水と光を纏って襲い掛かってくるものであった。単純な術式だな、要はそう判断して呪文も唱えずに魔法を発動させた。叩き落される蔓が朽ちるのを見た後、ポンッと自らの持っている本と叩いた。
 魔道書使い……これは多くの場合が魔力を作るのが苦手、もしくは何らかの理由で魔力を作れないものがなるものである。だからと言ってそのような人間なら誰でも慣れるわけでもなく、その物体に込められた魔力を上手くコントロールする才能が必要となってくる。多くの場合は専用の魔道書を使うものが多い。本来この手のものが使う魔道書というのは、属性ごとに魔法名と発動方法、呪文が並べられているもので、発動方法を実行しなければ、上手く制御することは出来ない。しかし、要は発動方法の部分をすっ飛ばして魔法を制御しているのだ。
 本来そのようなことは出来ないはずであるが、要は違う。事実、春が現せた木も魔道書の文字をなぞって呪文を唱えただけである。そんなもので魔道書から発動する魔法が制御できるわけがない。要は物質に宿った魔力の引き出し、コントロールすることに非常に長けていた。それ故に魔法使い最弱といわれる魔道書使いでありながら、Sランクに身を置いていた。他にも魔道書使いも属性に縛られてしまう。普通の魔法使いのように三つまで、なんて言う制限では無いが、必ず使えない属性が出てきてしまうのだ。要にはそれがない。魔道書に載っている属性ならば全てを扱えてしまう。それ故に人々は要のことを天才魔道書使いと呼び、それなりに敬意を払っていた。