ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: MIRAGE ( No.2 )
日時: 2011/03/29 19:59
名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)

第一の魔法劇〜第一話:誤解時々責任〜

 窓から朝日の差し込む静かな部屋。部屋には妙に豪華なベッド、机、ずらっと本の並べられた本棚……必要最低限のものしかおいていないようだった。そのせいだろうか? 部屋が異常に広く感じる。そんな部屋のベッドに上には一人の少年が眠っていた。それを見守るかのようにドアの横に優希が寄りかかっていた。
 突然、微かで規則的だった少年の寝息が乱れ始める。きつく握られた手と、キュッと結んだ口。どうやら嫌な夢でも見ているらしい。それを見た優希は表情をまったく変えずに少年に近づき、その額に手を当てる。優希の口元が微かに動いたかと思えば、手が弱々しく光を発する。
 しばらく間が空いて、ゆっくりと少年が目を開く。輝きを失って濁った赤の右の瞳と、それとは対照的に透き通った青の左の瞳。腰ぐらいまでの長さでさらさらの銀髪。どこか少女を思わせる顔立ちと、華奢な体つき。名を月音 望(ツキオト ノゾム)という。
 「おはよう、望。魘されていましたが平気ですか?」
 薄い笑みを浮かべて望に問いかける優希。望は少々首をかしげた後に、黙って頷く。それを見れば、優希は安心したように薄い笑みを優しい包容力の有るものへと変え、望に包帯を手渡す。
 包帯を受け取れば器用に包帯で右目を隠す望。しばらく間が開いて静かな声で優希が「また、あのときの夢ですか?」と望むに問いかける。その問いかけに対し望は悲しげな表情で頷き、机の上に置いてあった花音と書かれた赤い紙を宙に投げ、シュッと空を裂くような動作をする。
 弱い光が走ったかと思えば、クルリと宙返りをして、赤髪をツインテールにしていて、紅の瞳、赤いリボンのついた白いワンピースを着た少女、式紙のカノンが現れる。
 式紙というのは多くの魔法使いが用いる下部のことであり、多くの魔力が必要なもの、主に情報収集に向いているもの、更には戦闘に向いているものと色々な種類がいる。そして、式紙を扱う魔法使いは大抵二つは式紙を持っているのだ。
 理由は簡単。情報収集に向いている式紙で敵の動き、力を探り、戦闘用に向いている式紙で一気に叩き潰すことが出来るからだ。まぁ魔法使いなら魔法使いらしく、魔法を使えと思うのだが。

 「ん? どうしたの? 突然式紙を出して」
 突然、式紙を出した望を不思議そうに優希が見つめているのを見て、カノンが首をかしげ「こうしないと言いたいことを伝えらないって主人が伝えて欲しいんだってだよ?」と伝える。それを聞いた優希の表情が一瞬だけ暗くなり「気にしなくても良いんですよ? 僕が魔法を使えば済むのですから」と呟くように言い、望の頭をなでる。
 ふるふると首を振る望の後にカノンは「会話のたびにそんなことをしていたら、お兄様の魔力が持ちませんって主は考えてるんだよ」と明るい笑顔を浮かべてそう言う。
 その言葉がどれだけ優希の心を抉るものだっただろうか? 望には悪気がない。むしろ真剣に兄である優希のことを心配し、その身を案じているだけなのだ。だが、望が喋れなくなった理由を知っていて、それが自分の引き起こしたことだと思っている優希にとっては、深く心を抉る凶器にしかならなかった。
 「まだ……あの時のこと、忘れられない?」
 静かに頷く望と「お姉様がいなくなったのは僕のせいだから、忘れるわけにはいかないだって」と望の伝えたいことを言葉にするカノン。さらに優希の表情が暗くなる。
 何があったかは後々説明していくとして、本来はどちらも悪くはないのだ。もしくは悪いのは二人どちらも同じこと。だからどちらか一方がすべての責任を負わなくてはいけないという事は無いのである。そのことにこの二人は気づいていないから、すべての責任を一人で背負おうとする。誰がそんなことを望むというのだろうか?
 「入るぞ」
 ノックの音が響き、落ち着いた少年の声が聞こえてくる。そのしばらく後にドアが開き、肩くらいまでの金髪に、紫の瞳の少年、月城 輪廻(ツキシロ リンネ)が入ってくる。白いTシャツに真っ黒なマントを羽織っていてズボンは普通のジーンズ。ズボンにはチェーンが付けられている。
 「外出許可が出たのだが、望と兄様も一緒にどっか行かないか? 月乃ツキノハルは行くとさ。つか先に出発したな。あいつら」
 なんと言うか空気が読めていない輪廻。しかしそれが逆に救いだったらしく、望は目をキラキラさせて頷く。優希の方も薄い微笑を浮かべ「そうですね。ずっと城の中にいては、気が滅入ってしまいますから」と言う。
 輪廻は優希と望の反応を見て満足そうに頷き「じゃあ一時間後には出発するから、飯食って、支度しておけよ」と言って部屋を去るのだった。