ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: MIRAGE ( No.3 )
- 日時: 2011/03/29 19:59
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第二話〜誤解時々平和〜
朝食をとった後、望はのんびりと着替える。少々あくび交じりで眠そうにしながらも、黄色のコートのようなものを羽織り、一ヵ所だけを六芒星のボタンで留める。ちなみにその下は赤のTシャツにジーンズを穿いていた。鏡で髪を確認した後、パタパタと可愛らしい足跡を立てて待ち合わせの場所に向かう。
案の定望が一番最後に待ち合わせ場所である門の前に着く。まぁのんびりマイペースに準備をしていたのだから当然と言えば当然であろう。すっかり待ちくたびれた様子の輪廻とすでに読書を開始している優希を見れば望は少しスピードを速めて二人に近づく。それに気づいた輪廻は明るく、優しげな笑みを浮かべて「やっと来たか……まぁ時間通りだが」と言って、少々乱暴に望の頭を撫でてやる。
輪廻に撫でられ、心地よさげに目を細める望を見て優希は本を閉じ、クスリと笑みを浮かべる。輪廻は望の頭を撫でるのをやめ「さて、出発することにするか。その前に望、そのコート脱いで兄様に預けて」と言っう。望はキョトンとしながらも羽織っていたコートを脱ぎ、優希に渡す。
「全知全能の神ゼウスよ、わが魔力を糧にこの者に声を与えよ」
まるで歌うかのように、輪廻は呪文を紡ぐ。その言葉に合わせるように揺ら揺らと手を動かし印を結ぶ。魔法とは魔力を使って神や精霊の力を借りて様々なことを行う事である。よって魔法を使うためには上手く神や精霊の力を制御できなくてはいけない。それが出来るかできないかが、人間と魔法使いの大きな違いである。
ちなみに魔力は生命エネルギーが元になっていて、一応は人間も魔法を使うことは出来る。しかし、人間は元々魔力となる生命エネルギーが少ない上にその回復も遅い。だから、元々の生命エネルギーも多く、その回復も早い魔法使いのように魔法を使えばどうなるか……それは簡単。死が待っているだけである。ちなみに一番使う魔力が少ない魔法でも、人間の回復スピードを考えた生命エネルギーでぎりぎり発動できるぐらいの魔力を使う。ゆえに人間は魔法を使えない……否、使わないのである。
呪文や印は魔法を発動したときの“ムラ”を無くし、暴走を防ぐためのものであり、実際のところは呪文や印がなくても魔法は使えるし、人々がイメージする杖を持つような魔法使いも少ない。
杖は魔力の逆流を防ぐためのものであり、魔法には直接関係しないのだ。それに魔力が逆流するなんてことはそうそうない。それに魔力が逆流したところで生命エネルギーを魔力に変換するのを止めてしまえば、あら不思議と言う具合に魔力の逆流は止まってしまう。だから、言ってしまえば杖はただの飾りともいえるのだ。
淡い光が走った後、望はキョトンとした表情で輪廻を見つめる。輪廻は静かに手を叩き「声、一時的にだけど出せるようにした。不便だろ?」と言う。輪廻の言葉を聞いた望は少し驚いたような顔をした後「えと……ごめんなさい」と謝る。優しげな笑みを浮かべ「気にすんな」と望の頭を軽く小突くのを見れば、そんなに魔力を消耗していないことが伺えた。
のんびりと歩くこと約一時間。たどり着いたのは上質な水晶が取れると有名な町、クリスタルエリアだ。多くの魔法石が売られている町で常に人でにぎわっている。ちなみに魔法石というのは、水晶にある一つの魔法の力を閉じ込めたもので、まだ自力では魔法を発動できない幼い魔法使いが使うことが多い。他にも全く使えない魔法を補うために使うものもいたりする。
そんな魔法石を売っている店の前に二人の少女が立っていた。一人は黄色い髪を尻尾のような纏め方をし、紫色の瞳で黄色のラインが入ったコート、その中に白いTシャツを着ていて、水色のスカートを穿いている少女、花月 月乃(カゲツ ツキノ)。もう一人はピンクの髪をポニーテールにしていて、触覚のような緑色のアホ毛が二本生えている青紫色の瞳をした少女、花月 春(カゲツ ハル)。こちらの服装は月乃のコートのラインがピンクになっただけだ。
「おっそいよー輪兄、優兄、望兄」
月乃が頬を膨らませて言う。春の方はニコニコと笑って「後五分遅かったらぶん殴ってやろうと思ったよぅ」と言う。危なかったなと言うような表情をする輪廻と苦笑いを浮かべる優希。望は黙って首をかしげている。
月乃はため息を付いた後「んで? 今日は何処に行くの? 確か第三特別エリアで魔法大会開かれてるはずだけどー?」と言う。それに続けて春が「そう言えば春達ってイベントに一般人として参加したことないよぅ」と言った。輪廻が少々困ったような顔をし頭を掻く。優希の方は静かに微笑んでいるだけで何も言わない。
「どうっすっかなぁ……望はアクアエリアに行きたいって言ってたんだけど……」
真剣に悩んだような表情をする輪廻に、望は「別に僕は良いです。兄は妹の意見を優先するべきですから」と言って笑いかける。それを聞いた月乃と春は満面の笑みを浮かべ「ひゃっふーい!! 望兄最高」なんて叫んでいる。微笑ましい光景だとでも思ったのか、周りにいた人は優しい微笑を浮かべて輪廻たちの事を見ていた。
「確かに俺ら、仮にも王族の身だから一般人として参加するのは無理だったからなぁ。今日は別に正体をばらす必要もねえし、ま知ってる奴が殆どだけど、どーにかなるよな」
輪廻の発言を聞いて望は小さく頷いて、少し嬉しそうに笑っていた。優希の方は話がまとまったことに気づけば静かに手を動かし印を結び「さぁ、僕に近づいてくださいな。移動魔法を使いますよ」と言う。全員が自分に近づいたことを確認すれば、優希は呪文さえ唱えず静かに、手で空を裂くような動作をする。瞬間、五人の姿は光の中に消えた。