ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: MIRAGE ( No.5 )
- 日時: 2011/03/29 20:00
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 0iVKUEqP)
第四話 誤解時々戦闘
望が琉華の手を払い「気楽、ですね。なめられているみたいです」と呟いても、琉華は静かな笑みを浮かべてその場に立っている。まるで挑発しているかのようにも感じられた。ゆっくりと口を開いた琉華が言い放った言葉は望をイラつかせるには十分すぎた。そりゃあ初対面の人間に「つか温室育ちが魔法なんて使えるのでしょうか?」何て耳元で囁かれてみろ、イラつくに決まっている。
望は感情が隠すのが上手いのか、笑顔のままその場に立ち「野蛮なSランクさんに僕の繊細な魔法が理解できますでしょうか」と挑発。琉華の方は僅かに笑みを引きつらせグッと手を握り締める。二人の気迫に、押され気味になりながらバトル開始を告げる審判の声が響き渡った。ギャラリーたちの声が声援ではなく、罵声に聞こえるほど騒がしい。
「大いなる海の神ポセイドンよ、我が魔力を糧に我に相応しき武器を貸し与えよ!!」
ユラリと印を結び、天へと伸ばした琉華の手の上で青い光が何かの形を作り、散った。しばらくして降ろした琉華の手に握られていたのは三叉の鉾。途端に罵声にさえ聞こえてきたざわめきがやむ。囁くような声で「神話級の武器……あいつ只者じゃねぇぞ」と言っているのが聞こえてくる。ポセイドンの鉾……これを使いポセイドンが海陸を持ち上げ、波を自在に操り、岩を裂き、地震を起こしたりしたといわれているものである。
実際神々が使用したと言われる武器は神話級と言われていて、使えるものも、魔王一族を除いた最上級役職のSランクでさえ、使えるものは二人しかいないとされていた。そんなものを楽々と出されてしまえばギャラリーたちも声を失うだけである。しかし一番驚くべき存在である対戦者の望はいたって冷静で、黙って手を振り上げる。その手には紫色の光が乗り、一瞬で長槍を作り上げた。さらにその横には金色の光が浮いている。
「……知恵と戦いの神、アテナの長槍ですね。ゼウスの雷も味方につけましたか。と、いうことは僕の属性の一つは分かってしまっているようですね」
ポツリ、と琉華が呟けば静かに望は頷く。ゆっくりと口を開き「海の神ポセイドンの三叉の鉾を出したと言うことは水属性および全属性でしか考えられませんから」と答えた。単純なことではあるのだが琉華は不愉快そうに顔を歪めた。ああ、細工をしておけばよかったと考えながら。それ以上に相手が呪文を唱えないと言うことに苛立ちを感じていた。
魔法使い達の間では呪文を使わないと言うのは絶対的に暴走しないと言う自信の表れか、言葉が不自由なのかのどちらかだ。しかし自分の目の前にいる相手は言葉を発している。と、言う事は自信があるとうことかと結論付けるしかない。実際のところ輪廻の魔法のおかげで喋れているだけなのだが、他との関わりが少ない魔王一族の子供である望が喋れないと知るものは殆どいないのだ。
低く舌打ちをして鉾を地面へと突き立てる琉華。大きく地面が揺れるが望は全く動じない。と言うより気付いていないようだ。よく見てみれば僅かに宙に浮かんでいる。
「ちょっと待てゴラァ!! いつの間に飛んだんだよ!!」
琉華のそんな反応を見れば、望はクスリと笑い「口調、崩れていますよ?」と言う。ギャラリーたちはこの二人の動きがあまりにも少ないためか、神話級の武器もただの飾りかと思い始めているようだった。声援ではなく、ただの罵声が飛び交い始めている。
「……魔王一族の左翼の琉華……と言うことは右翼の蓮もいるな……」
突然観客席に現れた少女……奏魔 悠花(ソウマ ユウカ)が呟く。長い金髪をツインテールにしていて、緑色の瞳。服装はフリルやリボンが沢山ついた黒と水色のワンピースで、右の袖だけがすっぱりと切り落とされている。はっきり言ってこのような場所にいるような格好ではない。優希達一行もそうであるが、この少女も異様に浮いている。
しかし悠花の周りのギャラリーたちは悠花の登場よりも、その言葉に気を惹かれたようだった。魔王一族の右翼、左翼と言うのは魔王一族を守護する役目が与えられているSランク、Aランク魔法使いたちの中でもトップクラスの力を持った二人のことを指し、右翼がリーダー、左翼がサブリーダーと言う扱いをされる。
右翼、左翼は魔王一族が一番信用できるSランク魔法使い、つまりは古くから魔王一族に使えているものを任命することが多く、死亡率が高いのが非常に有名だった。右翼、左翼に任命された者は、人間の時間にして三年も生きていれば十分褒められるぐらいだった。
「何故、絶がいる? 問いたい」
突然だった。静かな足音と共に太股位の長さの青髪をポニーテールにしていて、右目には眼帯、左目は青の瞳の少年……霧月 蓮(ムヅキ レン)が現れる。黒いベストに青いネクタイ、黒いズボンと言う格好だ。見た目はどちらかと言うと女の子よりなのだが、それとは似合わない、淡々とした喋り方をしている。
悠花が静かに笑い「別に関係がないじゃない。右翼の蓮」と言葉を投げかければ、蓮は明らかに不愉快そうな表情をして「王子たち狙いなら、容赦しない」と答えた。まるでその蓮の言葉に同意するかのように琉華は水で竜を作り上げ、勝負の最中にもかかわらず悠花のいる方向を睨みつけている。
悠花はクスリと笑って、ただ一言「今はそんな気ないから安心してちょうだいな」と答え、身を翻して歩いていく。低く、舌打ちをして「僕たち守護者達は、個々がお前の倍以上、魔力がある。お前はそれを五人も相手に出来るか」と問いかける蓮。
それを聞いた悠花はくだらないと言うように笑い「私たち代行者は確実に七罪を解き放つわ……あの鍵を使ってね」と告げた。