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Re: 〜The stop world〜13話うp ( No.56 )
日時: 2010/06/02 20:06
名前: ハバネロ (ID: EWcIN/Ij)

【脱獄計画】

翌日

翌日といっても時間が止まってるので感覚だけだ。
田中と心一は鳴り響く早朝のサイレンで目が覚めた。
『受刑者は自分の持ち場へ迅速に移動しろ!!』
2人は顔を合わせると、渋々ベットから立ち上がる。
2人の持ち場は中央広場の掃除。
昨日会った紫苑と美保も、雑談の中で中央広場が仕事場と言っていた。
2人は牢屋のドアが開くと、廊下を歩いて中央広場へと目指す。
「やぁ!!新人♪」
田中が先頭を歩いていると、突如牢屋から一人の女性が出てきた。
見るからに犯罪者ではないその女性は田中と心一と並んで歩き始める。
「誰だあんた?」
「私は阿野次智。日本テレビの記者だったんだ。」
「・・・なるほど。
田中は適当に返事をすると、心一の腕をつかんで中央広場に入った。
それでも尚、後ろから智はついてくる。
2人は無造作に地面に置かれた掃除道具をとると、噴水付近で掃除を始めた。
「田中さん、脱獄ってどうやってするんですか?」
「あいつを使う。」
田中は自分たちのいる場所とは反対の方向にいる智に指を指す。
心一は首を傾げて田中を見た。
「あいつ、元記者だろ?口が達者のはずだ。それに・・・・」

「脱獄!?」

心一の後ろに、いつの間にか智がいた。
心一は驚いて田中の後ろに隠れた。田中は眉をピクリと動かし、首を縦に振る。
「そうだ。脱獄するのさ。」
「どうやって?いつ?」
智は目をキラキラさせて詳しく聞いてくる。
田中はそんな智を見てニヤリと笑った。
「今日の自由時間。一番看守の守りが薄い時間に正門を正面突破するのさ。」
田中は正門を指さしながら言う。正門はこの刑務所の受刑者にとって唯一の出入り口。
智はそれを聞くと、田中の両手をつかんで頭を下げた。
「私も入れて!!お願い!!」
「いいぞ。その代わりに、この刑務所内でそれを言い振らせ。」

「へ?」

智につられ、心一もその言葉に一瞬動きが止まる。
脱獄なんだから、周りにばれたら意味がない・・・はずなのに。
「そんなので良いなら是非!!それじゃあ、私はその時間帯どこにいればいいの?」
「正面玄関。頼むぞ。」
田中が言うと、智は大きく頷いて自分の持ち場へと戻って行った。
心一は田中の顔を見ると驚愕した。
「いろいろ疑問はあるけど・・・今日!?」
「そうだ。急ピッチで考えたが、これしかない。」
田中は持っている箒を動かしながら言う。
心一は先ほど説明にも出た正面玄関の方を向いた。
高さ5メートルほどの鉄の門の上、武装した看守10人が守っている。
「本当にやる気ですか?」
「あぁ。」
早朝掃除終わりのサイレンが鳴ると、2人は掃除道具を片付けて自分の牢屋に戻った。

**********

田中・心一の房

「うぉい!!1100番の囚人!!手伝うぜえぇぇ!!!」
田中と心一が牢屋に戻ると、刑務所内ではすでに噂は広まっていた。
やはり、全員が乗る気の様だ。無論、これも田中の考えの一つである。
無実の人間が大半である受刑者は、見ず知らずでもすぐに一致団結していた。
田中は心一の顔を見る。心一は首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「俺らは脱獄前にやらなければならないことがある。」
田中の言葉で心一は収監直後の田中との会話を思い出す。
「そう・・・・選ばれし者の場所が分かるリストだ。」
田中は牢屋から見える正面玄関の方を向く。
そして、その時が来るのをじっと待つのだった。

**********

刑務所内 署長室

刑務所内で不穏な空気が流れていることに、すでに山本氷介は気付いていた。
36歳でこの刑務所の署長を任され、未だに問題が起きたことはない。
しかし、田中と心一が収監されてから何か嫌な予感はしていた。
「絶対に何もさせないぞ・・・」
紫色の不気味な髪に目の下に広がる黒いクマをつけた山本は言った。
腰に忍び込ませてある特注の威力強大のショットガンに触ると、不気味に微笑む。
「いざとなれば・・・俺も出るよ・・・・」
氷介はそう言うと、署長室を後にした。