ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 〜The stop world〜20話うp ( No.77 )
- 日時: 2010/06/06 18:03
- 名前: ハバネロ (ID: EWcIN/Ij)
【桐谷駿冶の過去】
時間停止日2012年から2年前 2010年
当時の桐谷は政府の法務省の役人として働いていた。
毎日同じような仕事をし、その日もいつもと同じように帰っていた。
桐谷は20歳になって青森から母と上京していた。
桐谷が自宅がある世田谷区の住宅街に向かっていた時だった。
ウゥーーーーー ウゥーーーーー
スーツにかばんを持った桐谷の後ろから、2台の消防車と3台のパトカーが通り過ぎていく。
その前方を見ると、住宅街から一本の煙が空に伸びていた。
「火事か?」
桐谷はその時、『物騒だな』と思うだけで、まだ真実を知らなかった。
しかし、進むにつれて火事の場所がどこなのかが明確に分かった。
「そんな・・・・嘘だぁぁぁぁ!!!!!」
桐谷は激しく燃え上がる2階建ての家に走り込もうとした。
だが、消火活動をしていた消防隊員に止められる。
「俺の家だ!!離せ!!!」
「もう無理です!!やめてください!!!」
消防隊員は桐谷を押さえながら、燃え上がる桐谷の家に水を噴射させるが、全然消える気配を見せない。
「お袋が病気で家に寝込んでんだよ!!早く助けろよ!!!」
桐谷が消防隊員に叫んだその時だった。
ズゥゥゥゥウゥゥゥゥゥン!!!!!
火事で脆くなった家は、虚しくも音を上げて崩れていく。
桐谷はその瞬間、暴れるのを止めてその場にしゃがみこんだ。
「お袋・・・・そんな・・・・・」
桐谷が呆然としていると、後ろから一人の警察が声をかけてきた。
「君・・・今日は署まで来なさい・・・・」
桐谷は言われるがまま、その警察にパトカーまで連れて来られて入った。
警察は助手席に座る桐谷を見ると肩に手を置く。
「名前は?」
「宮下・・・駿冶・・・・」
当時の桐谷はまだ宮下という苗字だった。
警察の男は頷くと、エンジンをかけてアクセルを踏んだ。
「俺は三上正弘。東京県警の刑事だ。よろしくな。」
「よろしく・・・?」
「今回の事件を担当することになった。」
桐谷はその言葉に顔色を変え、正弘の方を向いた。
「これは・・・放火なのか!?」
「その可能性が高い。第1発見者の証言によると、発火時刻の前に君の家から不審な男が出てきたそうだ。」
正弘はハンドルを右に回し、大通りに出た。
東京の街はネオンで飾られ、空に浮かぶ星が滑稽なものだ。
「不審な男・・・・誰だよ・・・・」
「君は政治関係の仕事をしているそうだが、恨まれることはしたかい?」
「するわけない。それに俺は、ただの役人だ。お袋だって人に恨まれるような人間じゃない。」
桐谷は窓を開け、風に当たりながら空を見上げた。
お袋が死んだ今、家族は青森にいる頼りのない自衛隊の父だけだ。
正弘は悲しむ桐谷の表情を見ると、署に着くまでは声をかけることはなかった。
**********
放火発生から4日後
桐谷は燃え尽き、すでに取り壊されていた自宅の前にいた。
桐谷の母、奈々は言うまでもなく焼死体で見つかったらしい。
「お袋・・・・」
黒いスーツに黒いネクタイの桐谷は葬式帰りに自宅に寄ったのだ。
ここにきて、感傷に浸ってる自分があまりにも寂しすぎる。
どんな時も優しく、常に息子のことを最優先に考えていた奈々は桐谷の自慢の母だった。
奈々を失った瞬間、寂しさと悔しさ、それにある人物への恨みが生まれた。
その人物とは父である宮下源五郎である。
あいつは、病院にも葬式にも顔を出していない。
桐谷が拳に力を込め、怒り爆発しそうな時だった。
「やっぱりここか。」
後ろを振り向くと、そこには正弘が立っていた。
正弘は片手に花束を持ち、それを燃え尽きた桐谷の自宅前に置く。
「俺の家もここからすぐなんだ。息子と娘がいてね・・・心一と仁美って言うんだ。」
正弘は桐谷の顔を見ると口を瞑らせる。
「俺は自分の息子を捨てた父親を許せない。」
「やっぱり、俺の親父は・・・・」
桐谷は正弘の言葉で悟った。
宮下源五郎は、妻が死んだ途端に息子を置いて姿を消したのだ。
「必ず探し出すからな。それまでお袋さんの遺志を受け継いで頑張って生きろよ!!」
正弘は桐谷の背中を力強く叩く。
桐谷は痛そうな顔をしたが、優しい正弘を見て微笑んだ。
「頑張ります。絶対に親父を見つけてください。」
「おう!!」
そして、それ以来正弘と桐谷は会うことはなかった。
━━━━━
話を終えると、宮下は足を止めてため息をついた。
理子と桃子は言葉が出ず、何を言えばいいのか分からなかった。
すると、後ろから湟謎が宮下に質問する。
「なぜ、病院にも葬式にも行かなかった?」
「・・・・あるプロジェクトを行っていた・・・・」
宮下の言葉に、湟謎と雅焔は顔を合わせて思いつく。
雅焔が思いついたことを悲しそうに言う。
「時空移動装置の設計ですね?」
「そうじゃ。そのプロジェクトに人生を費やしていたんじゃ。妻の死を知ったのは1カ月後じゃよ。」
宮下は涙を流し、その場にしゃがみ込む。
「あいつは、わしと時間が停止する前に一度あったが、もうわしを父と認めてくれなかった。」
宮下は涙を拭くと、何もない地面を見つめる。
4人は言葉が出ずどうすることもできない。
「駿冶は・・・必ずわしの手で戻すんじゃ・・・」
宮下は立ち上がり、時間が止まった空を見る。
この時、桃子は理解した。
選ばれし者の人間達は_________
つらい過去を背負った人間なのだと_______
桃子はすべてを思い出す。
心一は父の突然死、理子は両親の死、私は家族の崩壊、そして宮下は息子に奥さんを失った。
「そういうことなんだね・・・・」
桃子はそうつぶやくと、一滴の涙を流した。