ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

闇,光(そこに浮かぶモノ) ( No.1 )
日時: 2010/05/24 19:32
名前: 依織 ◆V86jftZniY (ID: WPWjN3c4)

    〔 闇天使と光天使 〕



「りゅーくんっ!」

 にこにこと満面の笑みを浮かべながら、瑠璃が龍の腕へと自分の腕を絡める。
 ここは龍の部屋で、彼ら二人以外誰もいない。元から二人はソファに座って引っ付いていたのだから、腕を絡めたといっても距離に大した変わりはない。
 「んぁ?」と龍が瑠璃へと顔を向けると、瑠璃はにへらっと可愛い笑顔のまま、龍へと問いかけた。

「りゅーくんは、“天使”ってどう思う?」

 何故そんなことを聞くのか。龍は一瞬そう考えたが、別にどうでもいいと言葉を返した。
 特に考えるわけでもなく、自らが想像している天使というものを言葉で紡いでいく。

「……白い翼が生えてて、空飛んで、それから頭に光のわっかがついてて、天界とかいうとこに——」
「——じゃなくて! 容姿じゃなくて、なんかほら、性格とかやりそうなこととか……」

 龍の言葉に、瑠璃が横槍を入れる。龍はそこで言葉を区切り、考えるようなそぶりを見せた。
 それから、少々困惑の表情を浮かべつつ、答えた。

「んー……優しいっていうか、慈悲深いっていうか? なんか、幸せそうっていうか」
「でしょお? ……じゃあ、“闇天使”は?」
「やみてんしぃ?」

 龍の言葉に、瑠璃が大きく頷く。そしてすぐに、再度龍に向かって問うた。
 聞きなれない言葉が出てきて、龍は思わず顔を顰めながら聞き返す。

「うん、闇天使」
「聞いたことないけど」
「あ、やっぱそっか。……じゃ、今からあたしの話を聞いてね」

 相変わらずにっこりと綺麗な笑顔を浮かべたまま、瑠璃は語りだした。
 
「天使は、“光天使”と“闇天使”に別れています」
「聞いたことないけど」
「もー、りゅーくんは聞いてて! 黙ってて!」

 いきなり出鼻をくじかれたことにむっとしたのか、瑠璃が頬を膨らませながら龍の頭を軽く叩く。
 龍が「ごめんごめん」と苦笑を浮かべつつ謝ると、瑠璃は満足げな様子でまた、語りだした。

「“光天使”は、さっきりゅーくんが言ったとおりの人達です。優しくてとても善良で、人々を幸福にさせてくれます」

 瑠璃はそこで、表情を変えた。それはとてもめぐるましい変わりようで——哀しみ、怒り、恐怖、狂気。
 その四つを繰り返すように、瑠璃の口元にたたえられた笑みはぐにゃりと歪む。歪む歪む歪む。
 けれども龍は瑠璃のそんな様子は見ていなく、ただ瑠璃の言葉を聞きながら宙に視線を彷徨わせていただけだった。

「問題は、“闇天使”なのです」


 ——ギリッ。


 龍の腕に、凄まじい力が込められた。「痛ッ」と呻きながら、龍は瑠璃へと顔を向けた。
 瑠璃の表情は、まるで悪魔だった。狂気に染まり果ててしまった、心の壊れた悪魔。
 顔いっぱいに広げられた笑みからは、嘲りや蔑みといった感情が込められている。
 危険だと、確かに感じた。けれども龍は、腕を掴まれていることもありどうすることもできないでいた。

「闇天使は、人を不幸しちゃいます。とってもとーっても悪い子達なの。まるで、悪魔みたいに。闇天使はね、異性を誘惑するの。それでね、生気を奪うんだよ」

 そう紡いだ瑠璃の表情は、一瞬冷静さを取り戻し——深い哀しみを、たたえた。
 けれどもそれは本当に一瞬だけで、次の瞬間には元の狂気に満ちた壊れた笑顔に戻ってしまう。

「そうして最後には、食べちゃうの」

 無慈悲に告げられていく瑠璃の言葉を聞きながら、龍は必死にもがいた。
 腕を瑠璃の腕から離そうとしたが、瑠璃は尋常でない力で龍の腕を締め付けていた。
 ぎりぎりと骨が唸るくらい、強く強く。当然痛くないはずもなく、龍の口からは呻き声が洩れ始める。

「そのまま頭をがぶり、ってわけじゃないよ?」

 ぎりぎり。ぎりぎり。ぎりぎり。
 段々パニックに陥っていく頭の中で、龍はただ瑠璃の言葉を聞いていた。
 
「心をね、食べちゃうの。ばりばりむしゃむしゃ、って」

 掴まれていないほうの腕で、思い切り瑠璃の頭を殴ろうとしたが——瑠璃の空いているほうの腕で、簡単に受け止められしまう。
 瑠璃は綺麗に手首を掴んでおり、骨が折れてしまうんじゃないかと思うぐらい強く強く、ぎりぎりと握り締める。

「ねぇ、りゅーくん——」

 



「————あたしはどっちでしょう?」




           end.




+後書き+
なんぞこれ。初っ端からこんなものですみませんでした。
色々と突飛な設定ですが、生温かい目で見守ってもらえたら幸いでございます^^←