ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- それは幸せか,果たして悪夢か。 ( No.2 )
- 日時: 2010/05/25 13:58
- 名前: 依織 ◆V86jftZniY (ID: WPWjN3c4)
さあ、踊りましょう。
(だからお願い、この手をとって)
【 私とキミ 】
気がつくと、隣にはいつもキミがいた。でも別に、私はそれを不思議には思わなかった。
いつの間にかキミが隣にいることが当たり前になっていて、もう離れられないと私は感じ始めた。
だから今までより、ぎゅっとキミの手を握った。キミが、離れていかないように。
ずっとずっと、私と一緒にいてくれるように——。
たとえ、世界が滅んでも。たとえ、世界を敵にまわしても。たとえ、キミや私が死んでも。
ずっとずっと一緒。そうでしょう?
もう、離さないから。キミのこと、狂おしいほど愛してる。
**
私がそのことを知ったのは、わずか半日前だった。時間は午後八時。
風呂を上がり、自分の部屋でテレビを見ながら、のんびりとしている時だった。
私の今お気に入りの曲が、流れ出す。この曲は——キミだ。私は机の上にほっぽってあった携帯を引っつかむ。
「もしもし」
『俺だけど』
「そんなの言わなくてもわかってるよ」
携帯を耳にあて、小さくそういうとすぐさまキミの声が返ってきた。
私はキミへとそう返す。だって、この曲で設定しているのはキミだけだから。
「どうしたの?」
『あ、実はさ、俺——……』
キミに告げられた言葉に、私の頭の中が一瞬にして真っ白になる。
あれ、キミはさっきなんて言ったっけ?
ああ、そうだ。『今から死ぬんだ』って言ったんだよね。聞き間違いかなあ?
……聞き間違いなわけないか。だって私がキミの言葉を聞き間違えるわけがない。聞き間違えたことなんて、無いんだし。
じゃあ、『死ぬ』っていうのはほんとなの? あれ、ほんとだったらどうなるんだっけ。
キミが、消える? 死ぬってことは、死ぬんだよね。死んじゃうん、だよね。
死んだらキミは消える。私とは、もう一緒にいてくれない?
——なんで死ぬなんていうの。なにかの、冗談なの? 冗談だったら、許さないから。
ほんとだとしても、許さないから。……ほんとだったら?
キミは死ぬ。キミは消える。キミは私の隣には、… … も う い て く れ な い ?
『今まで、有難う』
「……から」
『え?』
ふざけないで。冗談だよね? 冗談なんだよね!? そう、これは冗談。冗談に決まってる。
でも、もし——ほんとだったら、私はどうするの? そういえば、キミは嘘をついたことが無かったね。
私は、止めるべきじゃないの。止める。止める止める止める——ほら、早く大声で!
キミを止めて。キミは、ずっと私といるべきなの!
「もし死んだら、……——許さないから」
そう、許さない。キミが死んだら、私もすぐに死のうかな。
そうだ、それがいい。そしてキミと一緒にいるの。ずっとずっとずっとずっと、一緒にいるの。
『……ああ、最後に怒られるのはやだなぁ』
「じゃあ、死ぬなんて言わないで」
『それは無理』
……え? ねぇキミは、なんて言ったの? 『無理』? なんで無理なの。無理じゃないのに。
キミは、ほんとのほんとに死ぬ気なの? 死んじゃうの? ちょっと、待ってよ。ねえ!
その時、ぴんぽーんとチャイムが鳴った。お母さんもいるし、別に出ないでいい。
それより今は、キミのこと! キミが死ぬ? 駄目、そんなの許さない!
「なんでっ……なんで無理なの!? 待ってよ、ねえ待って!」
『待てない』
なんで、なんでそんな……哀しいことを言うの?
キミは、そんな人じゃなかった。優しくて明るくて温かくて元気でいつも笑顔で私を笑わせてくれて。
人を優しく包み込める、ふんわりとした包容力を持っていたキミ。一緒に泣いて怒って笑ってくれたキミ。
キミじゃ、無い。
「……違う」
『ん?』
「 違 う 、 私 の キ ミ は お 前 じ ゃ な い ッ ! 」
ああなんだ、キミは操られてるだけなんだね。誰かは知らないけど、なにか悪いモノに操られてるだけ。
うん、きっとそう。キミ自身は、悪くない。悪いのは、キミを操ってるモノ。
なぁんだ、じゃあ早くキミを元に戻してあげなきゃ。どうすればいいかなあ?
——ずしっ。……ずし? 誰だろう。誰かがゆっくりと廊下を歩いているみたい。
お父さんかな? まぁいっか、今はキミのことに集中しなきゃね。
どうしようかなぁ。うーん……あれ、そういえばさっきからキミは何も喋ってないみたい。
なんにも、聞こえない。……でも、まだ通話中。どうしたんだろ。
とにかく、切られないうちにキミを元に戻す方法を考えなくちゃ。
漫画とかみたいに、私がキミの名前を呼んだら戻る、なんてことはないよね。
じゃあ、どうするべき? 私は何を、すればいい。
——ずし。
そうだ、いっそ殺してしまおうか。殺しても、きっと大丈夫だろう。
だって、何かが憑いてるだけなんもの。殺してもきっとキミは、生き返るよね。
——ずし。
じゃあ、どうする? 包丁とかあればいいんだけど、台所まで行かなくちゃいけないし……。
お母さんにばれたら色々と厄介だしなぁ。うーん、どうしよう。
——ずし。
カッター? 鋏? あ、鋏はいいかもしれない。首に向かって思い切り振り下ろせばいい。
鋏、どこにあったっけ。
——ずし。
ああ、あったあった。でもどうしよう。キミは何も言ってくれない。
「もしもし」って言ってみた。でも何も、返ってこない。なんで? なんでなの?
——がちゃ。
「え?」
ノックも無しに私の部屋のドアがあいたので、ドアのほうを見る。
——そこには、血の滴る紅い包丁を持った、キミの姿、が、……!?
「今まで有難う。今日で俺は、死ぬんだ。“お前と付き合ってた俺”は死ぬんだ。俺は、違う俺になるんだ」
「——だから、さよなら」
ああ、なんだ。そういうこと。私を殺しに来たっていうの?
じゃあ、私もキミを殺そうかな。そして一緒に死のう。うん、それでいい。
包丁を構えたキミが、走ってくる。私は立って、数歩後ろへ下がる。
キミは私とある程度距離をつめて、包丁を振り下ろした。
このままだと、包丁は私の頭に刺さって死ぬ。じゃあ、今私が鋏を突き出したら——
私だけ、キミだけが死ぬ。そんなの、哀しいでしょう?
「——だから、ね、一緒に死のう?」
end(歪んだ愛,狂った愛)
+後書き+
どうも、テストぼろぼろだった依織です。書いてる途中でなんだかわけわからなくなりました。
やっぱり病んでますねぇ……恋愛物を書いてハッピーエンドにいったこと無いんですよね←